鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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 けれど私は藍之介に共感できなかった。
 鬼が人間になりたいだなんて、不可思議でならなかった。
 
「……なんで? そんなにすごい力があるのに、なにもできない人間なんかになりたいの……?」

 藍之介は私に向き直る。
 真剣な眼差しは、今までの思いを載せたようだった。

「鬼は病にかからない、ケガをしてもすぐに治る、だから相手を労らない、嘘をつけないからあからさまなことばかり言う、だけど人間はそうじゃない。弱いからこそ気遣い合い、支え合う。人間の嘘には優しさが含まれている場合だってあるだろ」

 その理由は、急激に私を惹きつけた。
 藍之介という存在が、離れたかと思えばまたぐんと近づいた気がした。
 私が閻火の本音に希望を見出したように、藍之介は人間の配慮と呼べる必要な嘘にあたたかさを感じていたのだ。

「だけど僕は人間にはなれなかった。嘘をつけば鬼の力はほとんどなくなって人間と変わらなくなるって聞いたのに。地獄にいる時と変わらないまま……もう僕は、人間でもなければ鬼でもない、得体の知れないものになり果てた」

 藍之介は自身の姿を確かめるように手のひらを見つめ、強く握りしめた。
 憧れた人間になることもできず、追放された故郷に帰ることもできない。
 自分という存在の輪郭を失い、彷徨っていたのだろうか。
 それは、人生という道端で迷子になり葛藤している私に通じるものがあった。

「……お願い、教えて」

 意を決して立ち上がる。
 藍之介の深海の瞳を、強く見つめ返した。

「私になにを隠しているのか、今までなにがあったのか」

 それに対し答えたのは、閻火の方だった。

「天邪鬼となった鬼が人間を殺めたという報告もある。それでも真実が知りたいか?」

 蒼牙と呼ばれた鬼は、藍之介を騙っていたと言った。成り代わっていたということだ。
 だとすれば、最初にいた人間の藍之介はどこに行ったのか。
 つまり、邪魔だった彼を、消した可能性が避けられない。
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