鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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 辺り全体が青いもやに包まれる。
 別世界に連れて来られたようだ。
 袖口を揺らし、華奢な腕が伸びてくる。
 私と目線を合わせるために前傾姿勢になれば、腰にかかる緩くウェーブした青髪が滑るように頬をかすめた。
 藍之介を怖いだなんて思いたくないのに、意識に反して顎が震える。
 本能が逃げろと警鐘を鳴らすのに、金縛りに遭ったように身体が動かない。
 静寂の空間で返すはずだった文庫本が落ちる音だけが響いた。

「大事に大事に育て上げて、おいしくいただくつもりだったのに、まさかあいつが来るなんて」

 頬に添えられた手が熱い。
 すぐそばにある顔は作りこそ藍之介だが、鬼化のせいか別人に見える。
 あどけなさの残る甘い美貌は誰をも掌握するとさえ思えた。

「もう少し熟すのを待ちたかったけれど、そうも言っていられない、横取りされてたまるもんか」

 長いまつ毛の下に光る濡れたような藍色の瞳。
 澄んだその奥を取り憑かれたように見つめれば、全身から力が抜けなにも考えられなくなる。
 ずるずると、壁に沿う形で重力に従い床にお尻をつけた。

「その様子じゃまだ完全にあいつのものになったわけじゃないだろ、さあ、今のうちに……僕と指契りをしよう、君は僕のものだ」

 そう言って膝を折った藍之介は私の左手を持つ。
 そしてそっと口元に運ぶと、閻火との証が浮かぶ小指に牙を向けた。
 その瞬間、藍之介の腕が燃え上がる。
 私の手首を掴んでいた肘から着物を巻き込み、赤い火炎に覆われる。
 瞼を閉じる間もない場面に、一気に現実に引き戻された。
 藍之介は険しい顔つきで私の手を離すと、特に取り乱す様子もなく立ち上がる。
 そして右手のひらに生み出した青い火球を、左手についた赤い火にかぶせるようにスライドさせた。
 火を持って火を制した藍之介の片腕は確かに傷つき炭のように黒くなっていたけれど、見間違いではないかと思うほど瞬く間にして修復していった。
 そういえば藍之介がケガをしているところなんて見たことがない。
 本当に、人間じゃないんだ。
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