鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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「藍之介、いないの?」

 本棚同士の均一に保たれた間隔を歩く。
 私の呼びかけは宙を漂い消えていくだけだ。
 店舗と繋がるように真後ろに一軒家がある。
 そこが藍之介と両親の居住スペースだ。
 藍之介に限ってうっかり約束を忘れたり寝坊なんてするはずがない。私じゃあるまいし。
 おじさんとおばさんはまだ寝ているだろう。
 こんな時間にインターホンを鳴らしては迷惑だと思い、藍之介のスマートフォンに電話をしようとズボンのポケットに手を当てた。
 その時だった。ぼんやりとにじむ光が再び現れたのは。

 ズボンに落としていた視線を僅かずつ持ち上げる。
 次第に視界を占めていく光景。私を驚かせたのは明かりの再来だけではなかった。
 顔を上げた先、ただの床しかなかったはずの場所に、円形状に浮かび上がる青い光。
 淡く煌めく炎に似たそれの中央には、一匹の獣が横たわっている。
 四本の足にふわりとした毛並み、三角の耳に筆のように伸びた尻尾。一瞬柴犬や狐を思わせるけれど、たぶん違う。これは狼だ。
 しかも普通の色ではない。
 サファイアのように息を呑むほど美しい青だった。
 苦しげに閉ざされた目に、半開きの口、小刻みに起伏する胸元。
 明らかに様子がおかしい。病気かケガだろうか。
 ゆっくり前進し、青い狼に手を伸ばそうとした瞬間、突如私の視界に小さな女の子が飛び込んできた。
 テレビの切れ端から映り込むようにやって来た彼女は十歳くらいだろうか、セミロングの黒髪に猫の絵が入ったトレーナーを着ている。
 私も昔こんな服を着ていた。
 滅多に新しいものを買ってもらえなかったので、なるべく汚さないように気をつけた。
 少女は青い狼に駆け寄ると、心配そうに身体をゆすっていた。
 不思議だ、すぐそこにいるのに触れられなくて、声も景色もぼやけて届く。幻覚の中に立っているようだ。
 けれど少女の言葉が、嘘でも夢でもないことを教える。
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