鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
91 / 158
赤鬼と青鬼

14

しおりを挟む
「辛そうにしているところ悪いが萌香、続いて聞く。……その藍之介という小僧との出会いからすべて思い出せるか?」

 そんなの、当たり前だ。
 出会いはおばあちゃんの喫茶店で。
 そこから仲良くなってしょっちゅう遊んで。
 遊んで……いたのに、どうしてだろう。
 小さな頃の藍之介の顔をはっきり思い出せない。
 そうだ、確か、小学校高学年に上がる時に、なにか重大なことが起きたような。だけどそれが、なんだったか思い出せない。

「……やはりな」

 閻火は腑に落ちたように平静な面持ちでいた。
 
「やはりって、なにが? 私には全然なにもわからないんですけど」
「藍之介にはもう会うな」

 ここまで来ればもう意味不明だった。
 いや、私の心が理解を拒絶していたのかもしれない。

「なに、言ってるんですか」
「あいつは危険だ、少なくとも絶対に二人では会うな、取り返しのつかないことになるかもしれんぞ」

 閻火のその台詞に、身体の芯からすーっと熱が引いていくのがわかる。
 昔の記憶は不鮮明だ。
 けれど思いつく限りの藍之介は、みんな優しい。
 喧嘩をしたこともない。いつもバカで無鉄砲な私をさりげなく支えてくれた。
 大事な幼なじみを貶された気がして、両の拳に力がこもった。
 冷えた気持ちがじりじりと燻り始める。
 強く地面を蹴り、閻火を横切ろうとした時「待て」と掴まれた腕をめいっぱい振り解いた。

「藍之介はっ……私のたった一人の親友なんです……悪く言うなんて許せない」
「落ち着け萌香、話を」
「来たばかりの閻火になにがわかるんですか!? ふざけるな!!」

 一気に沸点を超えた嘆きが文字の刃となり溢れ出た。
 なりふりかまわず闇を駆ける。
 閻火なら藍之介のことだってわかってくれる。風子や葉月ちゃんとやり取りしたように、仲良くできるはずだと、心のどこかで思っていた。
 いや、閻火なら私が本気で傷つくことを言わないと信じていたのだ。
 いつの間にかこんなに甘えていた私。そしてそれを裏切られたことが、怒りよりも悲しくて仕方がなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。

こちら、あやかしも診れる診療所。

五嶋樒榴
キャラ文芸
あやかしだって、病気もすれば怪我もする。そして友達にもなれる。 あやかしの世界に診療所を作った俺は、代々あやかしを診る家系の医者だ。 あやかしだって、俺たち人間と変わらない。 友情だって生まれるんだ。 そして俺はその友情ゆえに、大切な親友を半妖にさせてしまった。 でも俺は、一生あいつの側にいる。 俺達は親友であり、相棒だからだ。

あやかし奏の宮廷絵巻~笛師の娘と辿る謎解き行脚~

ネコ
キャラ文芸
古き都では、雅(みやび)なる楽の音にあやかしが集まると信じられていた。名家の笛師を父に持つ凛羽(りんう)は、父の急逝を機に宮廷に呼び出され、皇女のもとで笛を吹く役を任される。華やかな后妃たちの居並ぶ中、艶やかな音色を奏でる日々が始まるが、同時に何者かが宮中で不思議な事件を引き起こしていた。夜毎に消える女官、姿を見せる妖しの影……笛の音に導かれるように、凛羽の前には謎の手掛かりが次々と浮かび上がる。音色に宿る不思議な力と、亡き父が研究していた古文書の断片を頼りに、凛羽は皇女や侍衛たちと手を組み、事件の真相を探り始める。あやかしを退けるのではなく、共に音を奏でる道を探す凛羽の思いは、やがて宮廷全体を動かしていく。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...