鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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「い、いきなり後ろから抱きつかないでください、びっくりするじゃないですか」
「そのわりに嫌がる様子はないな?」
 
 にっと不敵に笑み迫ってくる閻火の顔を叩きつけるように両手で制する。危なかった。
 頬が熱いのをこの隙に鎮めなければ。
 顔が赤いなんて、図星を指されたと自白しているようなものだ。
 私を抱きしめているのが閻火だとわかった時、胸を撫で下ろしたなんて絶対に認めたくない。
 必死に羽交締め地獄から抜け出すと、問題の件について聞くことにした。

「さっき酔っ払いのじじ……おじさんに絡まれた時に私の手か身体から赤い雷みたいなのが出たんですけど」
「当然だろう、お前は俺の契約者だからな」

 閻火は考える隙もなく、胸を張り偉そうに言ってのける。
 この色と魔法みたいな力から閻火に関係していると思ったけれど、やっぱりだ。

「他の奴が萌香に触れようとすれば、その指輪に込めた力が発動するようになっている」

 閻火に指差された左手小指に視線を落とす。
 私たちにしか見えない、契約の証の赤い輪っか。実態はないのでつけている感覚はないけれど、心なしかほのかに熱を帯びている気がする。

「そういうことは先に言ってくださいよ」
「言わない方が秘密兵器みたいでカッコイイだろう」
「どこの厨二病ですか」

 前もって説明を受けていなかったことについては少し不満はある。
 とはいえこれのおかげで助かったのは事実だ。
 私は無意識のうちにこの指輪に……閻火に守られていた。
 腕っ節には自信があるので負ける気はしないけれど、無闇に暴れることもできない今、面倒ごとを遠ざけてくれそうだ。

「だがこれはまだ仮状態、本物の契約は指切りではなく指契りだからな」
「ゆ、指千切り……!?」

 穏やかではない単語にさっと血の気が引く。
 もしかしてちぎった指を食べるとか……?
 恐怖妄想が暴走する私を、閻火は顎に手をやり首を傾げながら見ていた。
 
「なにか思い違いをしているようだが……まあいい。いずれ正式に俺のものになればわかることだ」
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