鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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 駅から繋がる同じ道筋には、居酒屋の他にも飲食店がある。といってもたった三軒だ。しかも時間は深夜零時を過ぎているので人通りはほとんどない。
 小さな駅と歩道沿いに建つ街灯が夜の帳をほのかに照らす。
 ぐるりと首を回し周辺を見渡すけれど、約束をした人物の姿はなかった。
 藍之介はまだ来ていないようだ。
 終わったから待っていると一報入れた方がいいかもしれない。
 左手に握ったままのスマートフォンを持ち上げ、右手の人差し指で画面を弾く。
 藍之介からの連絡に続く文字を打っていると、居酒屋にぶら下がった照明がもう一つの影の訪れを知らせた。
 手を止め顔を上げると、気配のする方を振り返る。  
 私の後ろには薄い髪をした背の低い中年男性が立っていた。小太りな身を包む灰色のスーツは前をしめずによれよれで、コンクリートの地面に載せた足はふらふらとおぼつかない。
 絵に描いたような酔っ払いだ。
 土曜出勤で明日が休みだから羽目を外してしまったというところだろうか。

「姉ちゃん、可愛いなぁ、一緒にもう一軒行かないかい~」

 酒のせいで視界が霞み、誰でも美女に見える現象が起きているようだ。シラフで私に可愛いと言う物好きなんて閻火しかいない。
 スマートフォンをパーカーのポケットにしまい、苦笑いを浮かべながら後退りし「けっこうです」とやんわり断る。
 けれど言葉が届かないのか、男はどんどん距離を詰めてきた。
 漂うアルコール臭に、思わず歪めた顔を逸らす。
 本当は手首から引っ張り上げ、背負い投げしてやりたい。けれど誰かに見られて話が大きくなれば大変だ。私にはすぐ近くで店主をしている立場と責任がある。だからいくら人気がないといっても公共の場である限り注意が必要なのだ。
 ああ、もう、めんどくさい。
 こんな事態が起きるなら、閻火に店の目の前で待ってもらえばよかった。
 そんな考えがよぎった直後、私は二つの不思議な出来事を目の当たりにする。
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