鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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 それから約四時間が経過し、私の勤務時間が終了した。
 閻火はなんとそのかんずっと同じ席で食事をしていた。
 最初に宣言した通り、冷たくないものをすべて綺麗に平らげたのだ。
 まずいまずいと言いながらも残さず噛みしめ、体内に収めた。
 なのにあれほどの食料がどこに消えたのかと思うほど、その身はスリムなままだった。
 支払いはどうするのかとハラハラしながら会計を見守っていると、閻火の手にはカードがあった。
 光の加減で赤や虹色にも見える、クレジット会社名の記載がない不思議なカード。
 もしかしてこれが以前話していた専用のカードだろうか。
 「いいからやってみろ」と顎で促す閻火に後押しされ、試しにレジに通してみるとあっさり決済が完了する。
 閻火の容姿を思わせる色合いのカードは、彼の手に戻ると手品のように消え失せた。

 そのあと一緒に家まで帰ると聞かないので、仕方なく駅で待ち合わせることにした。
 店の前だと目立つので、少し離れた駅の方がまだマシだと思ったからだ。これ以上変な噂を広げられては困る。
 そしてロッカーでエプロンを脱ぎ、ショルダーバッグに入れたスマートフォンを見て、ようやく失態に気づいた。
 通話アプリの新着は藍之介。開いた液晶画面に並んだ文字を見て「げっ!」と野太い声が出た。
 「今から迎えに行くね」との内容。
 そうだ。先に藍之介と約束をしていた。
 いや、ちゃんと承諾したわけではないけれど、これは確実に来る流れだ。
 となれば閻火との鉢合わせは必至。
 別に二股をかけているわけではないので、後ろめたく感じる必要はないけれど。
 あんなに藍之介が来てくれたことを喜んでいたのに、あとから来た閻火に思考を奪われすぐそこの予定さえ忘れていたなんて。
 藍之介にどう閻火を紹介すればいいだろう、閻火は私が藍之介といるところを見たら「浮気者!」と騒ぐだろうか。
 怪獣のように怒る閻火を想像すると面白くて、ぷっと吹き出しながら店の引き戸を開けた。
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