鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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 学費も生活費も親が支払いアルバイト代がすべて自分のお小遣いだなんて、そんなおいしい暮らしはしていない。
 とはいえ親の保護下イコール安楽とは限らないので羨ましいとも思わない。
 過ぎていく日々の中で徐々に話が噛み合わなくなり、ただでさえ少なかった女友達とは疎遠になった。
 僅かなずれも積み重なれば一緒にいるのもストレスになってしまうと知った。
 アルバイト先の同年代の子たちを見ているとそんなことを考える。
 接客は好きなので仕事自体は苦にならないことが救いだ。
 なんの取り柄もない私に唯一〝好き〟という武器を与えてくれたおばあちゃんには感謝してもしきれない。
 それを思い出させてくれたのは閻火だけれど。
 ここまで支えてくれたのは藍之介だ。
 振り返ってみれば、いつもすぐそばに彼はいた。
 学校が違っても、実家がそれほど近くなくても、この店がきっかけでできた縁はおばあちゃんがいなくなってからも続いた。
 私の十九年という未熟な人生、藍之介の存在を無視しては語れない。 
 それほど暮らしに溶け込んでいた。
 藍之介は口数は多い方ではないけれど、不思議と馬が合った。
 けれどそう感じていたのは私だけかもしれない。
 頼りない私を面倒見のいい藍之介が仕方なく助けてくれていただけなのかも。
 自分の城である喫茶店で閻火やお客様と一緒の時はそこまで深刻にならずに済んだけれど、外に出てみるとなんとも心細い。
 私と藍之介の関係は、ときめきというやつさえ加わればきっと恋と呼べたのだろう。
 この時初めてそう思った。

 いつになくぼんやりしていると、不意に背後に気配を感じる。
 急に仕事中だったことを思い出すと、焦って後ろを振り向いた。

「いらっしゃ――」

 私の声はそこで途切れた。
 一気に頭が覚醒するのがわかる。
 今思いを馳せていた人物が目の前にいたからだ。
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