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挑戦と距離
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「へーえ、そうなんですか、ピンクも黄色も?」
「黄桃はさらにやめろ! 近づけるなー!!」
握った桃を翳して迫ると、今までの閻火からは想像もつかない焦りが露見した。
かわいそうに、赤鬼なのに真っ青になって。
これが本当の鬼の形相だ。
けれどここまで苦手だなんて、吸血鬼にとっての十字架のようなものだろうか。
そういえば藍之介が桃を置いておくといい、なんて言っていたような。
――そうだ、藍之介。
不意に思い出す、私の生活の一部になっている幼なじみの名前。
一つできた気がかりというのは、藍之介のことだ。
閻火が来てから私の中でさまざまな変化があった。けれど環境として変わったのは、藍之介に関してだけだった。
藍之介が来ないのだ。
朝か晩、開店か閉店どちらかの時間帯に必ずあった訪問がない。
ちょうど閻火と入れ替わるように、この三日間、藍之介の顔を見ていなければ連絡もない。
とはいえ家は目と鼻の先の本屋だ。事故や病気などの不幸があれば、藍之介の親から報告があるはず。
それがないということは……。
「ついにできたかな、彼女」
私の独り言に、桃と距離を取っている閻火がこちらを見た。
小さな頃から毎日のように会っていたのでなにか足りないような気分になるけれど、こればかりは仕方がない。今までいなかったのが不思議なくらいなのだから。
藍之介には成長した私を見てもらって、いつか繁盛した店に彼女と一緒に来てもらおう。
その前に放置している帳簿をなんとかしなければ。
この時の私はまだ、藍之介の思惑を知る由もなかった。
「黄桃はさらにやめろ! 近づけるなー!!」
握った桃を翳して迫ると、今までの閻火からは想像もつかない焦りが露見した。
かわいそうに、赤鬼なのに真っ青になって。
これが本当の鬼の形相だ。
けれどここまで苦手だなんて、吸血鬼にとっての十字架のようなものだろうか。
そういえば藍之介が桃を置いておくといい、なんて言っていたような。
――そうだ、藍之介。
不意に思い出す、私の生活の一部になっている幼なじみの名前。
一つできた気がかりというのは、藍之介のことだ。
閻火が来てから私の中でさまざまな変化があった。けれど環境として変わったのは、藍之介に関してだけだった。
藍之介が来ないのだ。
朝か晩、開店か閉店どちらかの時間帯に必ずあった訪問がない。
ちょうど閻火と入れ替わるように、この三日間、藍之介の顔を見ていなければ連絡もない。
とはいえ家は目と鼻の先の本屋だ。事故や病気などの不幸があれば、藍之介の親から報告があるはず。
それがないということは……。
「ついにできたかな、彼女」
私の独り言に、桃と距離を取っている閻火がこちらを見た。
小さな頃から毎日のように会っていたのでなにか足りないような気分になるけれど、こればかりは仕方がない。今までいなかったのが不思議なくらいなのだから。
藍之介には成長した私を見てもらって、いつか繁盛した店に彼女と一緒に来てもらおう。
その前に放置している帳簿をなんとかしなければ。
この時の私はまだ、藍之介の思惑を知る由もなかった。
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