鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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挑戦と距離

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 なだらかな下り坂の向こうから見えたのは、両腕いっぱいの四角いダンボール。
 宅配会社の制服を着た男性は、うちの扉の前に立ち止まると「よいしょ」と一息漏らし茶色い箱を地面に置いた。
 名前と差出人名を確認し合い、店の中からハンコを手に戻ると丸い枠内に印を押す。
 閻火は首を傾げ様子を窺っているけれど、私には日常の一幕だ。 
 ぺこりと頭を下げ去っていく背中を見送ると、ひょいっと抱えた荷物を肩に置き空いた方の手で扉を開き再び店内へ戻った。

「たくましいな、重くないのか」
「全然、こんなのへっちゃらです」
「その鍛えられた肉体、ぜひ拝みたいものだ」

 セクハラ発言を無視しながらフローリングの床に荷物を下ろす。
 ドサッという音から重量感のある中身が期待される。
 心なしかすでにいい香りが漂っているような、そんな気さえする。
 厳重に張り巡らされたガムテームを外し、一気に天井を開け放つと予想通りの光景があって嬉しくなり声を上げた。

「うわあー、今年のもおいしそう!」

 今私の目の前に広がるのは箱いっぱいの桃畑。
 毎年この時期になると「もう桃はおしまいだから」と言って、桃園をしているおばあちゃんの親戚が送ってくれるのだ。
 他にも柿やみかん、梨にリンゴにじゃがいもや玉ねぎなど上げ始めたらキリがないほど、いろんな青果を送ってくれる人たちがいる。 
 子供の頃からこの店によく来ていた私は、おばあちゃんの代わりに宅配便を受け取ることもあったので、大体どの季節に誰からなにが届くか把握するようになっていた。
 新鮮な食材には本当に助けられている。
 おばあちゃんの人望のおかげだ。
 だからこの縁を切ってはならないと、季節の節目には必ず連絡を取るようにしている。
 今回も忘れないうちに、すかさずお礼の電話を入れた。
 長くなりそうな話をうまい具合に切り上げると、ふと閻火の姿が見当たらないことに気づいた。
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