鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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挑戦と距離

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 それから一頻り話したあと、風子と葉月ちゃんは席を立った。
 会計を済ませ扉を開くと、ちりりん、と鳴る鈴の下で立ち止まった風子が振り向いた。葉月ちゃんは閻火との別れを惜しむしまちゃんをがんばってキャリーに入れていた。
 
「……ここに、パパとママが来たことって?」

 私とは両親の呼び方が違う。
 風子自身の気質と育てられ方も影響しているのだろう。特に母親は自分が生んだ血の繋がりのある娘を可愛がっているから。
 いつの間にこんなに目線が近くなったのか。
 あの女も背が高いからあっという間に私が抜かされる日が来るかもしれない。
 今はまだやや上目遣いに覗く風子に、静かに首を横に振った。
 私にどれほどのことがあったのか、風子は知らないし今後教えるつもりもない。
 実の母親の悪行を知ることが子供にとって呪いに等しく辛いことをわかっているから。
 だけど風子はバカではない。
 私がはっきり言わなくても、決して溶けることのないしこりが母親との間にあると勘づいているのだろう。そしてそれに連なるように、小さなわだかまりが実の父親との間にあることも。
 風子は少し時間を置いて「そっか」と言うと、いつも通りの能天気な笑顔に変わった。

「お姉ちゃんにはね、閻火さんみたいな人が似合うと思う、パパとママが反対しても風子はお姉ちゃんの味方だからね!」

 どうやら心配が斜め上を行っているようだ。
 両親に交際を認めてもらえず、悩む姉の図にでも見えたのかもしれない。
 理由はなんであれ、風子なりの気遣いをしてくれたことはありがたかった。
 私は「はいはい」と相槌を打つと、春風のようにあたたかく華やかな妹に手を振る。
 キャリーを携えた葉月ちゃんがやって来ると、試食会の件はまた改めて連絡を取り合おうと話し、二人は足並みを揃え帰っていった。
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