鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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挑戦と距離

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「ほ、ほんとに!? な、ななじゅってん!?」

 意図せず閻火の胸ぐらを掴み引き寄せてしまう。
 ああ、興奮してつい悪い癖が。

「嘘はつかないと言っているだろう」
「う、嬉しいっ……! い、ぃよっしゃあああ、やる気出てきたー!」

 閻火を離すと今度は胸の前で両手拳を握りしめる。
 まさかこんなになにも考えずに、好きという勢いだけで作った品に高評価をもらえるとは思っていなかった。
 自分自信を曝け出した作品だけに、認めてもらえた時の喜びもひとしおだ。
 鼻息を荒くしていると、突然大きな手が頭を乱暴に撫でてきた。

「な、なんですかいきなり」

 戸惑いながら見上げた閻火は糸のように目を細め、それはもう嬉しそうな表情で私の髪をかき混ぜ続けた。

「お前は〝おばあちゃんの味〟とやらに似せようとしているようだが、そんな必要はない。栗添萌香という人間はこの世とあの世を合わせても一人しかいないのだからな」

 閻火のぬくもりが離れる。
 骨張った手のひらの隙間から覗く眼差しは、やっぱり優しかった。

「この閻火が惚れたのだ、宇宙一いい女に決まっている」

 ぐらり、私だけ地震に見舞われたように立ちくらみがする。
 すでにある形をなぞるのではなく、自分らしさの道を行く。
 簡単なようで難しいこと。
 複雑なようで単純なこと。
 おばあちゃんが伝えたかったことが、また一つ、すとんと落ちて胸に溜まっていくような、不思議な感覚。
 そんな当たり前のことを教えてくれるのがいきなり現れた失礼な鬼だなんて、それもまた素敵なのかもしれない。そんな錯覚を起こしてしまった。
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