鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
71 / 158
挑戦と距離

12

しおりを挟む
 閻火が一口食べる前に、二人の熱い視線を感じた。
 風子も葉月ちゃんも、大きくした目でじーっとオムライスを見ている。

「風子も食べたいなぁ、おいしそうなんだもん」
「あたしも、少し食べてみたい、です」
「そうかそうか、ならばみなでシェアするぞ!」

 完全なとろとろ系ではなく、硬さが残ったふわりとした卵。閻火はそこにスプーンを差し込むと、小さく二人分を切り離す。そして二人が先に食べ終えてからになったお皿に移動させた。
 さっきまで満腹を訴えていたのに、甘酸っぱい匂いに食欲を刺激されたのだろうか。やっぱりケチャップは魔法のソースだ。
 それぞれの「いただきます」が合わさり、各自一斉に口に含む。
 「ん~!」と最初にわかりやすく反応を示したのは風子だった。

「おいしーい、風子絶対こっちの方が好きっ」
「あたしはどちらもいいと思います。デミグラスのちょっとした記念日に食べたい味に対してこちらのは日常的に食べたい味だなと感じました」

 風子の子供らしい発言と違って、葉月ちゃんの大人びた食レポに感心してため息が出た。

「すごいね葉月ちゃん、感想が上手」
「えっ? そ、そうですか、もしかしてうつっちゃったのかも……」

 なにがうつったのだろう、と探っている場合ではない。
 肝心な相手の言葉をまだ聞いていないのだから。
 チラッと閻火を窺い見ると、カウンターに背を預けながらじっくり味わうように口を動かしている。
 私が出したものの一口を、閻火は必ず目を閉じて受け止める。舌だけに感覚を集中させているのだろう。
 私と同じように、閻火も真剣だ。
 だからこそ挑戦する価値がある。
 やがて開いた真紅の瞳は、微かにしなり私を映していた。

「ふん、今までの中で一番マシではないか、七十点といったところか」

 しばし開いた口が塞がらず、息を吸うのも忘れる。
 聞き間違いではないかと鼓膜の調子を疑ったくらいだ。
 七十点といえば学校のテストでは大抵平均点以上。
 初めてもらった高得点にふつふつと喜びが湧き上がる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

須加さんのお気に入り

月樹《つき》
キャラ文芸
執着系神様と平凡な生活をこよなく愛する神主見習いの女の子のお話。 丸岡瑠璃は京都の須加神社の宮司を務める祖母の跡を継ぐべく、大学の神道学科に通う女子大学生。幼少期のトラウマで、目立たない人生を歩もうとするが、生まれる前からストーカーの神様とオーラが見える系イケメンに巻き込まれ、平凡とは言えない日々を送る。何も無い日常が一番愛しい……

【天下布武!】名前を奪いに来た転校生

はゆ
キャラ文芸
織田信長は脇役。正室×側室の最狂コンビが無双する、サイバー戦線観察記。 転校生は過去から来た信長の正室胡蝶。 『監視されとる』と伝えられ、成り行きで連れて来られた場所は漆黒の関ケ原古戦場。 そこに現れたのは側室吉乃と信長。 告げられていた予定は、戦争。 相手は――。 現代×戦国時代小説。 転生前の私たちが現代で無双するようです。 ――― 《コンセプト》 サイバー攻撃を擬人化した物語。 『何故』『どのように』『どうして』攻撃されるのか。主人公と一緒に擬似体験しながら、 ITと無縁であったり苦手意識がある人でも、スッとわかるように描く架空の話。 体内細胞擬人化マンガ『はたらく細胞』のようなコンセプト。 小学二年生の子が一人でも読み進められることを想定し、ルビ多めにしています。保護者の助言が必要な箇所は、読み進めるのを止め「◯◯って何?」と尋ねるよう、敢えて日常会話での使用頻度が低い言葉を用いています。 天才ハッカーや、チートスキル、正義の味方(ヒーロー)といった存在は登場しません。 この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等は実在のものとはいっさい関係ありません。 ――― 《お知らせ》 第0章 はじめに、4章(サイバーセキュリティ)を改稿しています。 音声読み上げ時、イントネーション異常が生じるふりがなは、意図的にカタカナ表記にしています。 ――― 《自主規制》 PG12指定 サイバー攻撃する側の思考や行動を描写しています。 全年齢に害が無いよう、比喩を用いたり抽象化する等の配慮をしていますが、小学生が感化され真似しないよう、保護者の助言や指導をお願いします。 ――― 《関連ワード》 サイバー攻撃/ランサムウェア/マルウェア/スパイウェア/ワーム/トロイの木馬/コンピュータウイルス/感染/RaaS/Ransomware/Malware/LockBit/Darkside/REvil/活歴物/白浪物/岐阜弁/関ヶ原/西美濃/西暦表記/帰蝶/胡蝶/濃姫 ――― 《試用中機能》 気になる機能を見付けたので、試用しています。 ●ボイスノベル 耳で聴けるオーディオブック https://novelba.com/indies/works/936987 2023/02/15 更新 ●電子書籍 EPUB3対応リーダーで閲覧可能 https://bccks.jp/bcck/175599/info 2023/02/15 更新

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった

竹井ゴールド
キャラ文芸
 オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー  平行世界のオレと入れ替わってしまった。  平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。

【完結】龍神の生贄

高瀬船
キャラ文芸
何の能力も持たない湖里 緋色(こさと ひいろ)は、まるで存在しない者、里の恥だと言われ過ごして来た。 里に住む者は皆、不思議な力「霊力」を持って生まれる。 緋色は里で唯一霊力を持たない人間。 「名無し」と呼ばれ蔑まれ、嘲りを受ける毎日だった。 だが、ある日帝都から一人の男性が里にやって来る。 その男性はある目的があってやって来たようで…… 虐げられる事に慣れてしまった緋色は、里にやって来た男性と出会い少しずつ笑顔を取り戻して行く。 【本編完結致しました。今後は番外編を更新予定です】

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...