69 / 158
挑戦と距離
10
しおりを挟む
「ええ、でもそこに頼りたくないような」
「なに言ってるのお姉ちゃん、利用できるものはなんだってしなくちゃあ」
「任せろ、萌香のためなら一肌脱いでやるぞ」
バチコーンと星が飛ぶ勢いでウインクをしてくる閻火に一瞬げんなりするけれど。
「もう、閻火は楽しんでるだけでしょ」
「それのなにが悪い?」
閃光のごとく返ってくる答えに、こちらはぐうの音も出ない。
「自分が楽しまずして相手を楽しませることなど不可能。いくら取り繕おうとも必ず綻びは露見するものだ」
閻火の言葉は雨雲を蹴散らす太陽のようだ。
はちゃめちゃな癖に核をついている。自己中心と見せかけて気遣いが含まれている。
甘事だけがすべてではない。彼を見ているとそう感じる。
「確かに、そう、かも……」
「さっきの顔はなかなかよかったぞ、娘たちと先のことを思案していた表情だ」
新しいことを始めるのは怖いけれどワクワクする。
自分ではわからないけれど、心の奥に湧いた期待感が表ににじみ出ていたのかもしれない。
楽しいのもおいしいのもお客様の専売特許で、店側は提供に徹するものだと思い込んでいたけれど。そもそも私がおばあちゃんの跡を継ぎたいと思ったのも、店で働きたいと考えたのも「面白そう」という単純な興味から始まったはずだ。
――そっか。楽しんでいいんだ。
背負った荷物を一つ下ろしたような、すっと身体が楽になった気がした。
「というわけで昼飯を作れ。お前が胸を張って大好きと言えるものをだ」
次はなにを言うのかと思えば、確かに今日はまだお昼ご飯を食べていない。
私が朝昼晩ときっちりおいしいチャレンジをするせいか、閻火も人間の食生活に馴染んできたのかもしれない。
「私の好きなもの、ですか?」
「ああ、今食べたいものでかまわんぞ、楽しんで料理しろ、好きなのだろう?」
嫌いなら飲食店をやろうなんて思わない。
具材を切る感覚も、火を通す時に漂う匂いも、完成した時の達成感も、みんな好きだ。
そこまで言うならやってやろうじゃないか。
なんせ閻火には最初のコーヒーで最低点をもらっている。今更どんなひどい点数をつけられても怖くはない。
「なに言ってるのお姉ちゃん、利用できるものはなんだってしなくちゃあ」
「任せろ、萌香のためなら一肌脱いでやるぞ」
バチコーンと星が飛ぶ勢いでウインクをしてくる閻火に一瞬げんなりするけれど。
「もう、閻火は楽しんでるだけでしょ」
「それのなにが悪い?」
閃光のごとく返ってくる答えに、こちらはぐうの音も出ない。
「自分が楽しまずして相手を楽しませることなど不可能。いくら取り繕おうとも必ず綻びは露見するものだ」
閻火の言葉は雨雲を蹴散らす太陽のようだ。
はちゃめちゃな癖に核をついている。自己中心と見せかけて気遣いが含まれている。
甘事だけがすべてではない。彼を見ているとそう感じる。
「確かに、そう、かも……」
「さっきの顔はなかなかよかったぞ、娘たちと先のことを思案していた表情だ」
新しいことを始めるのは怖いけれどワクワクする。
自分ではわからないけれど、心の奥に湧いた期待感が表ににじみ出ていたのかもしれない。
楽しいのもおいしいのもお客様の専売特許で、店側は提供に徹するものだと思い込んでいたけれど。そもそも私がおばあちゃんの跡を継ぎたいと思ったのも、店で働きたいと考えたのも「面白そう」という単純な興味から始まったはずだ。
――そっか。楽しんでいいんだ。
背負った荷物を一つ下ろしたような、すっと身体が楽になった気がした。
「というわけで昼飯を作れ。お前が胸を張って大好きと言えるものをだ」
次はなにを言うのかと思えば、確かに今日はまだお昼ご飯を食べていない。
私が朝昼晩ときっちりおいしいチャレンジをするせいか、閻火も人間の食生活に馴染んできたのかもしれない。
「私の好きなもの、ですか?」
「ああ、今食べたいものでかまわんぞ、楽しんで料理しろ、好きなのだろう?」
嫌いなら飲食店をやろうなんて思わない。
具材を切る感覚も、火を通す時に漂う匂いも、完成した時の達成感も、みんな好きだ。
そこまで言うならやってやろうじゃないか。
なんせ閻火には最初のコーヒーで最低点をもらっている。今更どんなひどい点数をつけられても怖くはない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる