鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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挑戦と距離

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「ええ、でもそこに頼りたくないような」
「なに言ってるのお姉ちゃん、利用できるものはなんだってしなくちゃあ」
「任せろ、萌香のためなら一肌脱いでやるぞ」

 バチコーンと星が飛ぶ勢いでウインクをしてくる閻火に一瞬げんなりするけれど。

「もう、閻火は楽しんでるだけでしょ」
「それのなにが悪い?」

 閃光のごとく返ってくる答えに、こちらはぐうの音も出ない。

「自分が楽しまずして相手を楽しませることなど不可能。いくら取り繕おうとも必ず綻びは露見するものだ」

 閻火の言葉は雨雲を蹴散らす太陽のようだ。
 はちゃめちゃな癖に核をついている。自己中心と見せかけて気遣いが含まれている。
 甘事あまごとだけがすべてではない。彼を見ているとそう感じる。

「確かに、そう、かも……」
「さっきの顔はなかなかよかったぞ、娘たちと先のことを思案していた表情だ」

 新しいことを始めるのは怖いけれどワクワクする。
 自分ではわからないけれど、心の奥に湧いた期待感が表ににじみ出ていたのかもしれない。
 楽しいのもおいしいのもお客様の専売特許で、店側は提供に徹するものだと思い込んでいたけれど。そもそも私がおばあちゃんの跡を継ぎたいと思ったのも、店で働きたいと考えたのも「面白そう」という単純な興味から始まったはずだ。
 ――そっか。楽しんでいいんだ。
 背負った荷物を一つ下ろしたような、すっと身体が楽になった気がした。

「というわけで昼飯を作れ。お前が胸を張って大好きと言えるものをだ」

 次はなにを言うのかと思えば、確かに今日はまだお昼ご飯を食べていない。
 私が朝昼晩ときっちりおいしいチャレンジをするせいか、閻火も人間の食生活に馴染んできたのかもしれない。

「私の好きなもの、ですか?」
「ああ、今食べたいものでかまわんぞ、楽しんで料理しろ、好きなのだろう?」

 嫌いなら飲食店をやろうなんて思わない。
 具材を切る感覚も、火を通す時に漂う匂いも、完成した時の達成感も、みんな好きだ。
 そこまで言うならやってやろうじゃないか。
 なんせ閻火には最初のコーヒーで最低点をもらっている。今更どんなひどい点数をつけられても怖くはない。
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