鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
68 / 158
挑戦と距離

9

しおりを挟む
 閻火は右肩にしまちゃんを乗せたまま、堂々たる姿勢でキッチンを出て私たちの方へ歩いてくる。
 腰元に靡く末広がりの髪。普段は虹色を帯びた先端も今は赤一色に染まっている。
 その足が私の隣で止まった時、嫌な予感がした。

「俺は閻火、萌香と生涯添い遂げる男だ」

 予感的中。突然抱き寄せられた肩から閻火の強引な熱が伝わってくる。
 目の前に立った二人は声を出すのも忘れ呆気に取られていた。
 
「ちょっと、余計なこと言わな」

 閻火に文句をぶつけてやろうとキッと睨みつけたものの、咄嗟に言葉を切ってしまう。
 なぜなら唇が触れそうな距離に閻火の顔があったからだ。
 この近さが初めてなわけではない。
 けれど不意打ちに、しかも人間の姿で迫られたことはなかったのでつい動揺してしまった。
 鬼を象徴する角や牙、爪などの尖った箇所が払拭されると本当に人間に見えてしまう。
 これではただのカッコイイ男ではないか。
 「見えたらみな俺に惚れてしまう」そんな発言があながち間違いではないかも、なんて思ってしまった自分が憎かった。

「余計ではない、大事なことだろう、俺は嘘など微塵もついていないぞ」
「まっ、まだそうと決まったわけじゃないですから!」
「まだ、か……ふむ、いい傾向のようだな」

 余裕たっぷりに微笑しながら私の顎を人差し指で撫で上げる、閻火の台詞にハッとする。
 なんだか変だ。出会った時なら「冗談じゃない、絶対嫌」だと即答できたはずなのに。
 
「痴話喧嘩もできるくらい仲良しだなんて、羨ましいです」
「閻火さんなら立ってるだけで客寄せになりそーう」

 いつの間にか着席した風子が氷だけになったグラスをからから音を立てて揺らしていた。
 閻火の正体を知っている者からすれば、客寄せよりも魔除けのイメージが先立つ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不機嫌な藤堂君は今日も妖を背負っている

時岡継美
キャラ文芸
生まれつき不思議なものが見える上に会話までできてしまう浮島あかりは、高校入学早々とんでもない光景を目にした。 なんと、妖(あやかし)を山のように背負っている同級生がいたのだ。 関わり合いになりたくないのに、同じ整美委員になってしまったことをきっかけに、二人の恋がゆっくりと動き出す――。 ※エブリスタにて完結している作品を加筆・改稿しながら転載しております 表紙は、キミヱさんのフリー素材をお借りしました ttps://www.pixiv.net/users/12836474 ☆本作品はフィクションであり、実在する人物、団体名とは一切関係がありません。  また妖怪や都市伝説に関しては諸説あります。本作品に登場するあやかしたちは、エンターテイメントとして楽しんでいただけるよう作者がアレンジを加えていることをご理解・ご了承いただけると幸いです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

エスポワールで会いましょう

茉莉花 香乃
BL
迷子癖がある主人公が、入学式の日に早速迷子になってしまった。それを助けてくれたのは背が高いイケメンさんだった。一目惚れしてしまったけれど、噂ではその人には好きな人がいるらしい。 じれじれ ハッピーエンド 1ページの文字数少ないです 初投稿作品になります 2015年に他サイトにて公開しています

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

不機嫌な先生は、恋人のために謎を解く

如月あこ
キャラ文芸
田舎の中高一貫校へ赴任して二年目。 赴任先で再会した教師姫島屋先生は、私の初恋のひと。どうやら私のことを覚えていないみたいだけれど、ふとしたことがきっかけで恋人同士になれた。 なのに。 生徒が失踪? 死体が消えた? 白骨遺体が発見? 前向きだけが取り柄の私を取り巻く、謎。 主人公(27)が、初恋兼恋人の高校教師、個性的な双子の生徒とともに、謎を探っていくお話。

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

〈銀龍の愛し子〉は盲目王子を王座へ導く

山河 枝
キャラ文芸
【簡単あらすじ】周りから忌み嫌われる下女が、不遇な王子に力を与え、彼を王にする。 ★シリアス8:コミカル2 【詳細あらすじ】  50人もの侍女をクビにしてきた第三王子、雪晴。  次の侍女に任じられたのは、異能を隠して王城で働く洗濯女、水奈だった。  鱗があるために疎まれている水奈だが、盲目の雪晴のそばでは安心して過ごせるように。  みじめな生活を送る雪晴も、献身的な水奈に好意を抱く。  惹かれ合う日々の中、実は〈銀龍の愛し子〉である水奈が、雪晴の力を覚醒させていく。「王家の恥」と見下される雪晴を、王座へと導いていく。

処理中です...