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挑戦と距離
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閻火は右肩にしまちゃんを乗せたまま、堂々たる姿勢でキッチンを出て私たちの方へ歩いてくる。
腰元に靡く末広がりの髪。普段は虹色を帯びた先端も今は赤一色に染まっている。
その足が私の隣で止まった時、嫌な予感がした。
「俺は閻火、萌香と生涯添い遂げる男だ」
予感的中。突然抱き寄せられた肩から閻火の強引な熱が伝わってくる。
目の前に立った二人は声を出すのも忘れ呆気に取られていた。
「ちょっと、余計なこと言わな」
閻火に文句をぶつけてやろうとキッと睨みつけたものの、咄嗟に言葉を切ってしまう。
なぜなら唇が触れそうな距離に閻火の顔があったからだ。
この近さが初めてなわけではない。
けれど不意打ちに、しかも人間の姿で迫られたことはなかったのでつい動揺してしまった。
鬼を象徴する角や牙、爪などの尖った箇所が払拭されると本当に人間に見えてしまう。
これではただのカッコイイ男ではないか。
「見えたらみな俺に惚れてしまう」そんな発言があながち間違いではないかも、なんて思ってしまった自分が憎かった。
「余計ではない、大事なことだろう、俺は嘘など微塵もついていないぞ」
「まっ、まだそうと決まったわけじゃないですから!」
「まだ、か……ふむ、いい傾向のようだな」
余裕たっぷりに微笑しながら私の顎を人差し指で撫で上げる、閻火の台詞にハッとする。
なんだか変だ。出会った時なら「冗談じゃない、絶対嫌」だと即答できたはずなのに。
「痴話喧嘩もできるくらい仲良しだなんて、羨ましいです」
「閻火さんなら立ってるだけで客寄せになりそーう」
いつの間にか着席した風子が氷だけになったグラスをからから音を立てて揺らしていた。
閻火の正体を知っている者からすれば、客寄せよりも魔除けのイメージが先立つ。
腰元に靡く末広がりの髪。普段は虹色を帯びた先端も今は赤一色に染まっている。
その足が私の隣で止まった時、嫌な予感がした。
「俺は閻火、萌香と生涯添い遂げる男だ」
予感的中。突然抱き寄せられた肩から閻火の強引な熱が伝わってくる。
目の前に立った二人は声を出すのも忘れ呆気に取られていた。
「ちょっと、余計なこと言わな」
閻火に文句をぶつけてやろうとキッと睨みつけたものの、咄嗟に言葉を切ってしまう。
なぜなら唇が触れそうな距離に閻火の顔があったからだ。
この近さが初めてなわけではない。
けれど不意打ちに、しかも人間の姿で迫られたことはなかったのでつい動揺してしまった。
鬼を象徴する角や牙、爪などの尖った箇所が払拭されると本当に人間に見えてしまう。
これではただのカッコイイ男ではないか。
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「余計ではない、大事なことだろう、俺は嘘など微塵もついていないぞ」
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なんだか変だ。出会った時なら「冗談じゃない、絶対嫌」だと即答できたはずなのに。
「痴話喧嘩もできるくらい仲良しだなんて、羨ましいです」
「閻火さんなら立ってるだけで客寄せになりそーう」
いつの間にか着席した風子が氷だけになったグラスをからから音を立てて揺らしていた。
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