鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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原点回帰

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「閻火って人間の姿にはなれないんですか?」
 
 あんな小さな子供に変化へんげできるくらいだ。なら今の姿に近いまま人間らしくすることなど容易なのでは。
 閻火は顎に手を当ていかにも思案しているふうな態度を装う。

「なれないこともないが」
「なら人間の姿でいればいいんじゃ? そしたらわざわざ消える必要もないですし」
「見えたらみな俺に惚れてしまうから面倒だろう?」

 その答えに切り返す方が面倒だと思うので、今聞いたことは忘れることにしよう。
 
「それはそうとここはどこなんですか?」
「俺にもわからん、お前に適していそうな場所を選んだだけだからな」
「そんな無責任な……そうだ、お店! お客様が来たらどうするんですかっ」
「安心しろ、何度か覗いてやったが一切来客の気配はなかった」

 確かに今この瞬間だけは一安心かもしれないけれど、将来的には不安しかない。
 複雑な気分でため息混じりに「それはどうも」と言うのが精一杯だった。
 必死に帰ろうとしていた自分が少し虚しく感じるものの、ここに来たのは無駄ではなかったなと思うのも事実だ。
 パスタの感想を聞いた時は特別な力を持つ閻火に嫉妬にも似た不満が湧いたけれど、人間にこんな荒技はこなせない。
 鬼ならではのサポートに、ありがたいと思ったのが本音だった。

「どうやら悪くなかったようだな」

 閻火はそう言いながら私が胸に抱えていた長方形の紙袋を持ってくれた。
 どうやら私の表情から、なにか得るものがあったと察したようだ。

「うん……大切なことを少し、思い出せた気がするので、まあ……ありがとうございます」

 置き去りにされていたおばあちゃんの遺言も、本当の意味を理解できる日が来るかもしれない。独りよがりじゃなく、この鬼といれば。
 澄んだ風のように爽やかな気分に浸っていると、閻火がなにか思いついたようににやっと笑った。
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