55 / 158
原点回帰
15
しおりを挟む
閻火が子供の姿で現れた時、出そうとしたホットミルク。今朝のミックスジュースに、ナポリタンの隠し味。店に出す商品だけでなく、チーズやヨーグルトなど、乳製品は欠かせない。
牛だけではない。フレンチトーストには卵をたっぷり使用している。パスタのベーコンは豚だ。みんな人間の生活の一部となり、血肉を与えてくれている。
おばあちゃんが伝えたかったのは、このこと?
おばあちゃんが病院で息を引き取る時に言った「たいせつなこと」。
聞いた直後はその意味を探そうとしていたのに、必死な毎日に追われそれすら忘れていた。
「ああ、ごめんよ、お嬢ちゃんに言うことじゃなかったべな、忘れてけろ」
黙り込んでいるとおばさんが気遣いをくれた。
私は「いえ、大丈夫です」と顔を上げて言うと、立ち上がってもう一度牛の正面に回り、その頭を手で撫でた。
「……ありがとう。本当に、ありがとうね」
目頭がじんと熱くなるのがわかる。
私を映した黒い瞳がきらきらと無垢に輝いた。
感謝の気持ちだけは忘れてはいけない。
栄養価の高いものでおいしく身体作りができることは、当たり前ではないのだから。
私は今まで食事を残した記憶がない。
そんな食欲旺盛な自分が、初めて少しだけ誇らしいような気がした。
背後にいたおばさんを振り返ると、深々と頭を下げる。
「おばさんたちも……いつもありがとうございます」
この人たちがいなければ、私たち飲食業者はもちろん、一般家庭にも食材は回ってこない。
その時目に見えているものだけではなく、背景にあるものを想像して受け止める。
子供の頃できていたことが今できていなかっただなんて、恥ずかしくてたまらなかった。
けれどおばさんは「頭上げてけろ」と言いながら、困ったように笑ってくれた。
牛だけではない。フレンチトーストには卵をたっぷり使用している。パスタのベーコンは豚だ。みんな人間の生活の一部となり、血肉を与えてくれている。
おばあちゃんが伝えたかったのは、このこと?
おばあちゃんが病院で息を引き取る時に言った「たいせつなこと」。
聞いた直後はその意味を探そうとしていたのに、必死な毎日に追われそれすら忘れていた。
「ああ、ごめんよ、お嬢ちゃんに言うことじゃなかったべな、忘れてけろ」
黙り込んでいるとおばさんが気遣いをくれた。
私は「いえ、大丈夫です」と顔を上げて言うと、立ち上がってもう一度牛の正面に回り、その頭を手で撫でた。
「……ありがとう。本当に、ありがとうね」
目頭がじんと熱くなるのがわかる。
私を映した黒い瞳がきらきらと無垢に輝いた。
感謝の気持ちだけは忘れてはいけない。
栄養価の高いものでおいしく身体作りができることは、当たり前ではないのだから。
私は今まで食事を残した記憶がない。
そんな食欲旺盛な自分が、初めて少しだけ誇らしいような気がした。
背後にいたおばさんを振り返ると、深々と頭を下げる。
「おばさんたちも……いつもありがとうございます」
この人たちがいなければ、私たち飲食業者はもちろん、一般家庭にも食材は回ってこない。
その時目に見えているものだけではなく、背景にあるものを想像して受け止める。
子供の頃できていたことが今できていなかっただなんて、恥ずかしくてたまらなかった。
けれどおばさんは「頭上げてけろ」と言いながら、困ったように笑ってくれた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
宝石ランチを召し上がれ~子犬のマスターは、今日も素敵な時間を振る舞う~
櫛田こころ
キャラ文芸
久乃木柘榴(くのぎ ざくろ)の手元には、少し変わった形見がある。
小学六年のときに、病死した母の実家に伝わるおとぎ話。しゃべる犬と変わった人形が『宝石のご飯』を作って、お客さんのお悩みを解決していく喫茶店のお話。代々伝わるという、そのおとぎ話をもとに。柘榴は母と最後の自由研究で『絵本』を作成した。それが、少し変わった母の形見だ。
それを大切にしながら過ごし、高校生まで進級はしたが。母の喪失感をずっと抱えながら生きていくのがどこか辛かった。
父との関係も、交友も希薄になりがち。改善しようと思うと、母との思い出をきっかけに『終わる関係』へと行き着いてしまう。
それでも前を向こうと思ったのか、育った地元に赴き、母と過ごした病院に向かってみたのだが。
建物は病院どころかこじんまりとした喫茶店。中に居たのは、中年男性の声で話すトイプードルが柘榴を優しく出迎えてくれた。
さらに、柘榴がいつのまにか持っていた変わった形の石の正体のせいで。柘榴自身が『死人』であることが判明。
本の中の世界ではなく、現在とずれた空間にあるお悩み相談も兼ねた喫茶店の存在。
死人から生き返れるかを依頼した主人公・柘榴が人外と人間との絆を紡いでいくほっこりストーリー。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
不機嫌な藤堂君は今日も妖を背負っている
時岡継美
キャラ文芸
生まれつき不思議なものが見える上に会話までできてしまう浮島あかりは、高校入学早々とんでもない光景を目にした。
なんと、妖(あやかし)を山のように背負っている同級生がいたのだ。
関わり合いになりたくないのに、同じ整美委員になってしまったことをきっかけに、二人の恋がゆっくりと動き出す――。
※エブリスタにて完結している作品を加筆・改稿しながら転載しております
表紙は、キミヱさんのフリー素材をお借りしました
ttps://www.pixiv.net/users/12836474
☆本作品はフィクションであり、実在する人物、団体名とは一切関係がありません。
また妖怪や都市伝説に関しては諸説あります。本作品に登場するあやかしたちは、エンターテイメントとして楽しんでいただけるよう作者がアレンジを加えていることをご理解・ご了承いただけると幸いです。

夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった
竹井ゴールド
キャラ文芸
オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー
平行世界のオレと入れ替わってしまった。
平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。
星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。
ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。
でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。
新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

【完結】龍神の生贄
高瀬船
キャラ文芸
何の能力も持たない湖里 緋色(こさと ひいろ)は、まるで存在しない者、里の恥だと言われ過ごして来た。
里に住む者は皆、不思議な力「霊力」を持って生まれる。
緋色は里で唯一霊力を持たない人間。
「名無し」と呼ばれ蔑まれ、嘲りを受ける毎日だった。
だが、ある日帝都から一人の男性が里にやって来る。
その男性はある目的があってやって来たようで……
虐げられる事に慣れてしまった緋色は、里にやって来た男性と出会い少しずつ笑顔を取り戻して行く。
【本編完結致しました。今後は番外編を更新予定です】

完結 この手からこぼれ落ちるもの
ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。
長かった。。
君は、この家の第一夫人として
最高の女性だよ
全て君に任せるよ
僕は、ベリンダの事で忙しいからね?
全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ
僕が君に触れる事は無いけれど
この家の跡継ぎは、心配要らないよ?
君の父上の姪であるベリンダが
産んでくれるから
心配しないでね
そう、優しく微笑んだオリバー様
今まで優しかったのは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる