鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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原点回帰

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 閻火が子供の姿で現れた時、出そうとしたホットミルク。今朝のミックスジュースに、ナポリタンの隠し味。店に出す商品だけでなく、チーズやヨーグルトなど、乳製品は欠かせない。
 牛だけではない。フレンチトーストには卵をたっぷり使用している。パスタのベーコンは豚だ。みんな人間の生活の一部となり、血肉を与えてくれている。
 おばあちゃんが伝えたかったのは、このこと?
 おばあちゃんが病院で息を引き取る時に言った「たいせつなこと」。
 聞いた直後はその意味を探そうとしていたのに、必死な毎日に追われそれすら忘れていた。
 
「ああ、ごめんよ、お嬢ちゃんに言うことじゃなかったべな、忘れてけろ」
 
 黙り込んでいるとおばさんが気遣いをくれた。
 私は「いえ、大丈夫です」と顔を上げて言うと、立ち上がってもう一度牛の正面に回り、その頭を手で撫でた。
 
「……ありがとう。本当に、ありがとうね」

 目頭がじんと熱くなるのがわかる。
 私を映した黒い瞳がきらきらと無垢に輝いた。
 感謝の気持ちだけは忘れてはいけない。
 栄養価の高いものでおいしく身体作りができることは、当たり前ではないのだから。
 私は今まで食事を残した記憶がない。
 そんな食欲旺盛な自分が、初めて少しだけ誇らしいような気がした。
 背後にいたおばさんを振り返ると、深々と頭を下げる。

「おばさんたちも……いつもありがとうございます」

 この人たちがいなければ、私たち飲食業者はもちろん、一般家庭にも食材は回ってこない。
 その時目に見えているものだけではなく、背景にあるものを想像して受け止める。
 子供の頃できていたことが今できていなかっただなんて、恥ずかしくてたまらなかった。
 けれどおばさんは「頭上げてけろ」と言いながら、困ったように笑ってくれた。
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