鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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原点回帰

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 次の瞬間、私は違う場所にいた。
 瞼を動かす暇もなく、瞳を見開いたままの状態で、ただ茫然と立ち尽くしていた。
 目の前に広がる青々とした草原。その背景に映る赤や黄に色づき始めた樹木と山々。
 身体を固定したまま、乾きそうになる眼球だけをそろりと左右に動かした。
 果てが見えない芝生の上には、白黒のまだら模様の動物たちがいた。

「んもぉ~~」

 先に声を出したのは牛の方だった。
 そののどかな音に我に返ると、ようやく瞬きをし、頭をあちらこちらに動かした。
 たくさんいる牛たちは広々とした大地を有意義に使い、散り散りになって各自草を食べていた。
 何度瞼を擦ってみても現実は変わらない。
 どう見ても牧場だ。
 子供の頃おばあちゃんに連れて行ってもらった牧場……よりもはるかに大きい。
 ここは一体どこなのか?

「さむっ……!」

 僅かながら落ち着きを取り戻すと、今度は寒波がやってきた。
 息が白くなるほどではないけれど、ブラウスに膝下までのスカートでは震えてしまう。思わず両腕をクロスさせ自らの両肩を抱きしめた。
 私が住んでいる千葉では、今時期この服装で外出しても大して寒くない。
 地元で言うなら十二月初旬くらいの体感だ。
 朝からあの鬼に驚かされてばかりだけれど、たぶん今回が一番だ。
 肩を掴むことで魔法のようなものを発動させたのだろうか。
 辺りを見渡しても、閻火の姿はどこにもない。
 どうしたらいいのかと焦り始めた時、後ろからぽんっと肩を叩かれた。

「もうっ、閻火!」

 てっきり閻火だと思い込んでいた私はすごい剣幕で名前を呼んだ。
 けれど勢いよく振り返った先にいたのは、閻火ではなかった。
 私より少し低い目線の、ふくよかな体型をした女性が立っていたのだ。
 彼女はつぶらな瞳をぱちぱちさせながら私を見ている。その片腕には群青色のウインドブレイカーが持たれていた。
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