鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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原点回帰

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 緑や半透明の野菜に彩られたパスタ。暖色の明かりを受け艶感を放つそれが、閻火の口に運ばれる。
 ドキドキしながら息を呑み、食い入るように行く末を見守る。
 薄い唇にちゅるちゅると吸い込まれていく細い先端。その最後が消えたあと、閻火は目を閉じ音を立てずに咀嚼すると、やがてごくりと飲み込んだ。
 そして次に目を開けた時は「はん」と鼻で笑い、なんとも癪に障る顔をしていた。

「まずくはないがうまくもない、三十点、といったところか」

 言われることは薄々感じていたので最初ほどの衝撃はなかった。
 とはいえまだ中央値の五十点にすら達していないのだと思うと、背中に小石を投げつけられた気分ではあった。それもたくさん。
 ちなみに今朝のコーヒーの評価を聞いてみると「マイナス十点」だと言われた。
 まがいなりにも喫茶店の主をしているのに、さすがにそれはないだろう、辛口すぎやしないか。
 それと比べれば今回はずいぶんマシな方だ。そう自分に言い聞かせポジティブに受け止めることにした。

「そうですか……多少は自信があったので悔しい気持ちはありますけど、また次がんばります」
「お前のその自信というのは、一体どこから来ているのだ?」

 閻火はテーブルに左手で頬杖をつき、もう片方の手でフォークを弄ぶ。
 
「それは、おばあちゃんの味に近いと思うのと、他にもいろいろ、人気のあるお店の商品を参考にして何回も作り直したりしたので……」

 料理をする時はいつも、おばあちゃんの面影を追う。
 キッチンに立って楽しそうに話しながら具材を切り、フライパンやお鍋を使い、時折「あちあち」なんてお茶目な声を上げていたおばあちゃん。
 けれど記憶は薄れるものだ。
 悲しいかな、徐々にその姿は前ほど鮮明に蘇らなくなってきている。
 私はかつての光景を思い出そうと躍起になった。
 せめてレシピでもあれば違っただろう。けれどおばあちゃんはそんなもの残さなかった。
 そもそもすべてを目分量で作っていた人に、細かい手順をメモしろだなんて無理な話だ。
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