鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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原点回帰

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 閻火がその雑誌の中に手を入れる。
 ものの例えではなく、本当に紙の表面に右手を埋めたのだ。
 貫いているなら本の後ろ側から手が突き出しているはずだが、それもない。
 ぽかんとしている間に、閻火は隠れていた手首から先を引き戻した。
 するとその手には、花の模様があしらわれた真っ白なお皿があった。
 そしてなんとその上には、豪華なフレンチトーストが載っていたのだ。
 半分に切って斜めに重ねられた厚みのある食パン。中央に飾られた丸い頭のバニラアイス。すべてを覆うように贅沢に盛られた生クリーム。
 かじりつかんばかりの勢いでそれに近づくと、閻火の左手に持たれた雑誌と交互に見比べる。
 するとそのページに掲載されていたはずの写真が跡形もなく消えていた。
 その他の記事などは以前と変わらず、フレンチトーストの部分だけが綺麗に切り取られたように灰色になっている。
 本などに載っているもの、手で触れたら実物が出てきたらいいのになんて、思ったことはないだろうか?
 まさにそんな奇跡が今ここで起きていた。

「こ、これって、ほん、もの……?」
「この情報に基づいたものを取り出したからな、偽物ではないだろう」

 閻火の手のひらからすかさず商品を奪い取る。
 お皿を支える指先から伝わるあたたかさに芳醇な香り。間違いなくできたてだ。
 今月特集を組まれていた行列ができるカフェの目玉商品、特濃フレンチトースト。
 獲物を狩るような目で閻火を見上げると、うむ、と言いたげな頷きが返ってくる。
 目は口ほどに、とはよく言ったもので、私の気迫が伝わったようだ。
 だってこんな代物を前にして、食べないなんて選択肢はない。

 そっとキッチン台に置いたフレンチトーストに手を合わせると、いただきますを言うのも忘れフォークを突き刺す。
 パンとアイス、生クリーム、すべてを一度に味わえるように重ねて口に放り込んだ。
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