鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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原点回帰

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 なにを言っても離れないので、仕方なく鬼を背負ったまま料理を再開しようとした時だった。
 閻火がキッチンの片隅に置いたあるものに気づき、それを持ち上げたのだ。

「おいしいカフェの歩き方……?」

 一瞬なにが起きたかわからなかったけれど、その題名を読み上げられてハッとした。
 慌てて包丁を置き振り返ると、それを取り返そうと両手を伸ばす。
 すると閻火は楽しそうに片手を掲げ、あちらこちらに動かし奪還を防いだ。
 なんて子供っぽい鬼だろう。
 見た目が大人びているだけに、余計に腹が立つ。
 「ほーう」と言いながら頭上で固定した本をぺらぺらめくっていく閻火。
 そんな高い位置に持っていかれたら中肉中背の私に届くはずがない。
 
「お前はこんなものを見ているのか」

 改めて確認されるといい気がしない。
 閻火が今目にしているのは、人気のカフェカタログだ。
 おしゃれな内装から一押しのメニュー、またその調理法や集客の秘訣などが紹介されている。
 さらには今をときめくライター様のおすすめポイントも掲載されていて、毎月読むのを楽しみにしている……というのはただの言い訳だ。

「……参考にしてるだけです、今どんなのがウケるのか」

 私は流行りに疎い。
 それは客商売をする上で利点にはならないだろう。需要と供給が成り立たないと経営は破綻してしまう。
 なにを求められているか素早く察知し、提供する。それができない者は時代に取り残されていくだけだ。
 流行など気にせず数字が上がれば言うことはない。
 だけど私にそんな才能はない。
 だから興味がない雑誌を買ったり、苦手なSNSで情報のチェックもしているのだ。

「……なるほど、つまりこんな料理を作れたら事態は万事解決すると」
「そういうわけじゃないと思いますけど」

 飲食店を名乗るからには料理がおいしいのは第一条件だろう。
 とはいえそれを仕事にするには経営方針や戦略も必要な気がする。
 計算。つまり私がもっとも苦手なやつだ。
 考えただけで唸りたくなるけれど、そんな頭痛を吹き飛ばす事態が起きる。
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