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原点回帰
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鬼たちの仕事は悪い人間たちを裁くこと。
罪人たちにとって地獄はまさにそうだけれど、暮らしている鬼たちはわりと自由な日々を楽しんでいるらしい。
嘘をつけない世界なら騙したり騙されたりなどの問題も起こらないだろうし。
「それなら天邪鬼……だっけ? 人間界に永住なんてしたくないはずですよね」
「そうだな、強いて言うなら小さな嘘でも重罪になることが玉に瑕と言おうか。くだらないことで有能な鬼が追放されてしまうこともあるからな、俺が目をかけていた側近もそうだった」
そう話す閻火はどこか物憂げで、鬼にもいろいろ事情があるのだろうと思った。
鳳凰の姿で現れた時は目を疑い物事を考える余裕なんてなかったけれど、案外会話も成立するし少なくとも恐怖は感じない。
特殊な能力を除けば本当に人間と変わらないかも、なんて、警戒心が緩むとふと私の中にある思いが首をもたげた。
死後の世界の住人と交流する機会などまたとない。しかも閻火は地獄の門番。
ともすれば、生きている人間は大体似たようなことを考えるはずだ。
「ちょっと聞きたいことが」
「いいだろう、キッスの回数に応じて答えてやる」
「じゃあけっこうです。あとキとスの間に促音入れるのやめてください、なんか腹立つので」
わざと音を立てるように力を入れて玉ねぎの先端を切り落とす。
するとえぐみのある汁が目に飛んできて、思わず顔を顰めた。イライラするとろくなことがない。
「まあそう怒るな、可愛い妻にならなんでも教えてやるぞ」
じゃあ最初からそうすればいいのに、と思いつつも「可愛い」という単語に反応してしまう。
よく知っている言葉ではあるものの、自分に向けられることなど滅多にないからだ。
それこそ私を「可愛い」なんて言ってくれるのは、おばあちゃんくらいしかいなかった。
とんとん……と、包丁の刃がまな板を打つ音が次第に遠ざかる。
「……おばあちゃんは……天国に行きましたか?」
私の大切な人は、ちゃんと優しい世界に召されたのだろうか。
悼む人がいるなら、誰だって聞いてみたくなるはずだ。
罪人たちにとって地獄はまさにそうだけれど、暮らしている鬼たちはわりと自由な日々を楽しんでいるらしい。
嘘をつけない世界なら騙したり騙されたりなどの問題も起こらないだろうし。
「それなら天邪鬼……だっけ? 人間界に永住なんてしたくないはずですよね」
「そうだな、強いて言うなら小さな嘘でも重罪になることが玉に瑕と言おうか。くだらないことで有能な鬼が追放されてしまうこともあるからな、俺が目をかけていた側近もそうだった」
そう話す閻火はどこか物憂げで、鬼にもいろいろ事情があるのだろうと思った。
鳳凰の姿で現れた時は目を疑い物事を考える余裕なんてなかったけれど、案外会話も成立するし少なくとも恐怖は感じない。
特殊な能力を除けば本当に人間と変わらないかも、なんて、警戒心が緩むとふと私の中にある思いが首をもたげた。
死後の世界の住人と交流する機会などまたとない。しかも閻火は地獄の門番。
ともすれば、生きている人間は大体似たようなことを考えるはずだ。
「ちょっと聞きたいことが」
「いいだろう、キッスの回数に応じて答えてやる」
「じゃあけっこうです。あとキとスの間に促音入れるのやめてください、なんか腹立つので」
わざと音を立てるように力を入れて玉ねぎの先端を切り落とす。
するとえぐみのある汁が目に飛んできて、思わず顔を顰めた。イライラするとろくなことがない。
「まあそう怒るな、可愛い妻にならなんでも教えてやるぞ」
じゃあ最初からそうすればいいのに、と思いつつも「可愛い」という単語に反応してしまう。
よく知っている言葉ではあるものの、自分に向けられることなど滅多にないからだ。
それこそ私を「可愛い」なんて言ってくれるのは、おばあちゃんくらいしかいなかった。
とんとん……と、包丁の刃がまな板を打つ音が次第に遠ざかる。
「……おばあちゃんは……天国に行きましたか?」
私の大切な人は、ちゃんと優しい世界に召されたのだろうか。
悼む人がいるなら、誰だって聞いてみたくなるはずだ。
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