鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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 おそらく催促の連絡だろう。
 ほどなくしてその通話は切られ、葉月ちゃんはカバンにスマートフォンを直した。

「友達から……学校に来てって」
「うんうん、よかったね」

 私の予想が正解したのは喜ばしいことだった。
 ただ、先ほどの短いやり取りの中で一つ気になったことがあった。

「ところでその、風子、って子の苗字、栗添、だったりする?」

 私の問いかけに、葉月ちゃんは目と口も丸くした。

「えっ、どうしてわかるんですか? そうです、栗添風子、あたしのクラスメイトで」

 これまた大正解。世間は狭いというか、人の縁とは不思議なものだ。

「私の妹なの。母親は違うんだけどね」

 私たちが腹違いの姉妹であることを、風子は周囲に隠していなかった。
 それを踏まえた上で話すと、葉月ちゃんは驚きの表情を見せたあと、納得した様子で「はい、聞いてます」と頷いた。

「ママは違うけど、お姉ちゃんのこと大好きだっていつも言ってます」
「そうなんだよね、変わってるよねあの子」
「はい、少し……」

 ふふ、とお互い顔を見て笑い合う。
 私と違って女の子らしくて、いかにも大事に育てられたという空気を纏った可愛い妹。
 救いはお父さんに似ていることだろうか。
 あのひとに似ていたら、こんなに円滑な関係でいられなかったかもしれない。

「あの、今度風子と一緒に来てもいいですか? しまちゃんも連れて」
「もちろんいいよ、あ、次はできたら学校がない時にね」

 少しからかうように言うと、葉月ちゃんはハッとしたあと恥ずかしそうに肩をすくめ「は、はい」と消え入りそうな返事をしてくれた。
 それから今回は特別サービスでお会計はしなかった。
 「私からの奢り」と言うと葉月ちゃんは申し訳なさそうにしながらもはにかんで、頭を深々下げて帰っていった。
 来た時よりも明るい表情になった彼女を、清々しい気持ちで扉のそばから見送った。
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