鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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「うちは……お父さんもお母さんも忙しくて。家に帰っても一人の時間が長くて、あたしのことなんかどうでもいいのかなぁって」
「あ~、わかるよその感じ。私っていらない子なのかなって考えたり」
「そうなんです」

 中学二年生なんてまさに思春期真っ盛りだ。
 些細なことでも気になるのに、両親ともに不在がちなら心細くなるのも当然だろう。
 悩みはいろんなところに影響を及ぼす。
 いじめなどが原因でなくても、学校に行く気も起きない時もあるのだ。

「お母さんは特に今人気があって」
「人気? お母さんもお店かなにかしてるの?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、飲食関係といえばそうかもしれません。いつもお金だけ渡されて……」

 お金だけで解決できることって、この世にどれくらいあるんだろう。
 葉月ちゃんの家庭がおぼろげに、私の頭にふわふわと浮かんだ。

「私、実家を出て初めてお金を稼ぐのってすごく大変なんだなって知ったんだ。がんばってがんばって、ようやく手に入る。だからそんな大事なものを、どうでもいい人には渡さない……って思いたいな。葉月ちゃんが猫を飼いたいって言ったのも、認めてくれたみたいだし」

 それを聞いた葉月ちゃんは「そうですかね」と言いながら目を泳がせてジュースを飲んだ。
 葉月ちゃんを見ていると両親が好きなんだなと感じるから、和解できたらいいのになと、おせっかいながら思う。
 私のように本当に嫌っていたら救いようもないけれど。

「友達はいる? 他愛のないこと話せる子とか」
「あ、それは」

 葉月ちゃんの言葉は、足元のカゴから聞こえる振動音に遮られた。
 どうやらカバンにしまったスマートフォンが鳴っているようだ。
 気遣うように目配せをする葉月ちゃんに「もちろん出て」と手を添えて言った。

「もしもし、風子ふうこ……今ちょっと、うん、うん、わかってる、うん……ありがとう」

 葉月ちゃんは耳に当てた機器に相槌を打ちながら穏やかに答えていた。
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