鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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プライスレス

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 はっきり言ってかなりの攻撃力のはずだ。
 キックだけは誰にも負けない自信がある。
 残念ながら喫茶店経営に一切利点はないけれど。
 
「素晴らしい蹴りだ、さすがは俺の妻」
「さっさと消えろや」

 笑顔は葉月ちゃんに向けたまま、ガーッというミキサーおんにつぶやきを紛れさせた。
 まさか鬼を踏み台にミックスジュースを作る日が来るとは。人生なにがあるかわからない。
 綺麗に砕かれた果物たちがたっぷりのミルクと混ざり合う。
 動きが収まり蓋を外すと、甘くてまろやかないい匂いがする。
 ジュース用の細長い筒型のグラスを出すと、とろみのある液体を注ぎ入れ、ストローとともにトレーに載せて持ち運んだ。

 「お待たせしました」とテーブルに品物を置くと、葉月ちゃんは軽く頭を下げる。
 それから使い捨てのストローを手にし、袋を破るとグラスの中に沈め、その先端を吸った。
 踵を返しキッチンに戻ろうとすると「あの」と声がかかり足を止める。
 振り向いた先にいる葉月ちゃんは、伏せ目がちにミックスジュースをストローで混ぜていた。

「……その……なにも、聞かないんですか?」

 辛い時、話せと言われて話せるものだろうか?
 私はひどい時はそれすら面倒で。
 煩わしくて放っといてほしくて、だけど寂しくてかまってほしくて。
 そういう時おばあちゃんは無理に聞き出そうとせず、黙ってそばにいて見守ってくれた。
 私はおばあちゃんのように百点の対応なんてできないから、自分の経験に基づいたことしか考えられないけれど。

「……生きてるといろいろあるもん。私は家庭がちょっと……それで学校ですげえ荒れ……ちょっぴりやんちゃしてた時期があって」
「えっ、そうなんですか? 今すごく落ち着かれてる感じなので想像できません」
「これは落ち着かざるを得なかったというか」

 実は高校を卒業する直前までくるくるロングの金髪だった。いつの時代のギャルなんだというくらい化粧も濃かったし。
 だけどそれは実家暮らしの学生だったからできたこと。一応お父さんは私にお小遣いをくれていたし。
 今は節約したいのですっかり地味になってしまった。
 好きで薄い顔をやっているわけではないんだよ。
 閻火や藍之介の外国人も驚ろくほどの凹凸おうとつのある顔つきが羨ましくある今日この頃。
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