鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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プライスレス

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「びっくりした……いきなり現れないくださいよ、どうなってるんですかそれ」

 鬼には天地も関係ないのか、そもそも今までどこに隠れていて、いつ出てきたのか、私には皆目検討もつかなかった。
 閻火は相変わらず視線を動かさず、私の質問など耳に入っていない様子だ。

「あの小僧……」
「藍之介は私の幼なじみですよ。小さな頃から仲がよくて」
「……幼なじみ、な」
「ちょっと、藍之介に変なことしないでくださいよ? 今でもいろいろ相談できる私の大事な友達なんですから」

 閻火の含みを込めた声に釘を刺していると、また出入り口の扉が開いた。
 藍之介と入れ替わるように店を訪れたのは、中学生くらいの女の子だった。
 いや、間違いなく中学生だ。
 なぜならその子が着ている制服を知っていたから。
 濃紺のセーラー服に臙脂色のスカーフ。
 年頃の女の子なら一度は袖を通してみたいと思うような、上品で可愛らしいデザインだ。
 この辺りでそこそこ名の知れた私立わたくしりつの中学校。
 それはこの春私が家を出るまで、一緒に暮らしていた妹が通っている学校だ。
 姉妹といっても半分は血が繋がっていないけれど。

 少し早口で「いらっしゃいませ」と言いながら隣を見ると、またもや閻火の姿は消えていた。
 一応むやみに人前に出ては、面倒になると心得ているのだろうか? 
 それなら私が焦る必要もないかと、幾分か気が抜けた。
 にこやかに微笑みながらお客様に目を向けると「お好きな席へどうぞ」と声をかける。
 俯いたまま店内に視線を巡らせていた彼女をよく見ると、初めて会った気がしなかった。
 もったいつけるように優しげな垂れ目がようやく私を見上げた時、疑問が確信に変わる。
 記憶のページをめくるとすぐさま、彼女と一致する人物が判明した。

「あっ、昨日の……」

 ボブ丈の黒髪に控えめな存在感の少女は、昨夜この店に捨て猫を引き取りに来てくれたその子だった。
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