鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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求婚ナルシスト

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「ちょっと写真を載せたり、いろいろ変えてみます」
「賢明な判断だな、鬼の知恵は役立つぞ」

 そのあと「なんでもいいから出せ」と言われ、それは「今夜のおかずなにがいい?」と母親が聞いた返事で一番困るやつだと思った。
 けれど私は母親ではなく店主なので、こうなったら最も苦手としているコーヒーを出してやることに決めた。
 喫茶店を経営しているくせに看板とも呼べるコーヒーが苦手だなんて、ふざけているのかと。そんなことは本人がよく知っている。
 モカというコーヒーのために生を受けたような名前も、プレッシャーに拍車をかけるというものだ。
 かといってあきらめているわけではない。
 毎回全身全霊をかけ淹れている。
 おばあちゃんが豆を挽き、お湯を注ぎ、こだわりのハンドドリップでやってきた姿を思い出す。
 優しい面影を追いながら、集中して仕上げたコーヒー。そっとモカブラウンのトレーに載せると、閻火が待つテーブルへと向かった。
 こぼれないように気を配りながら、陶器でできたコーヒーカップをことんと置く。

「……出しといてなんですけど、鬼って人間と同じ食事するんですか?」
「うまいものならいくらでも食える。それはお前たち人間も同じだろう?」
「……なるほど」

 確かに姿形は人間と変わらないし、作り自体は似たようなものなのだろうか。
 この世では現しきれないような、発色のいい彩りと角や牙を除けば。
 そんなことを考えているうちに、閻火は持ち手ではなくコーヒーカップそのものを手のひらで掴んだ。
 そして一度に持ち上げると、背中を反らしながら豪快に喉の奥へと流し込んだのだ。
 淹れ立てアツアツのコーヒー。 
 人間がそんなことをすれば大やけどを負うだろう。
 さすがに心配になり焦って閻火に声をかけようとした。が、闇の底から這い上がるような低音に遮られる。

「まずい」
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