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求婚ナルシスト
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危ないのはあなたの頭ではなかろうか?
僅かながらの罪悪感を覚えた私の優しさを返してほしい。
そんなことを思いながらあくまで冷静に、鏡でいろんな角度から自身を堪能する鬼を眺めていた。
「……私にはやらなきゃいけないことがあるんです。だから今は、結婚だとかそんなこと、考えてる場合じゃないんです」
突き詰めてみた結論は、それだ。
例え求婚してきたのが鬼ではなく、人間の男性だったとしても。
また、それが非の打ち所がない完璧な相手だったとしても、だ。
恋人すら作る余裕もない私に、嫁ぐだの嫁がないだの、それほど不相応な話題はなかった。
閻火は鏡から離れこちらに向き直ると、また右手のひらからなにもない空間に物質を呼び出した。
先ほどの辞典のように分厚いものではなく、今度は幅の広い……A4サイズほどのファイルに似たものだった。
開かれた黒い表面には赤字で獄門帳と記され、その下にはなんと私のフルネームが続いている。ゴシック調のポップな字体がむしろ恐怖心を煽った。
「栗添萌香、九月九日生まれ、十九歳、好きな食べ物、おばあちゃんの手料理、嫌いな食べ物、なし……」
骨張った指先でぺらぺらと紙をめくっていく。閻火の口からこともなげに述べられる文字に、急に危機感を持った。
確か地獄の門番だと言っていた。
だとしたら――。
「右太もも裏に猫の形をした蒙古斑あり」
「ぎゃーーっ!」
焦ってファイルを取り上げようと突進するものの、ひらりとかわされ前のめりになりこけそうになった。
振り返った先の閻火は、ははん、といやらしい笑みを浮かべて私を見下ろしている。
「これは見るのが楽しみだな」とつぶやく閻火に、一生見せるものかと心の中で誓う。
それから閻火は「ほうほう、なるほど」と頷くと、納得したようにその書記を消した。
僅かながらの罪悪感を覚えた私の優しさを返してほしい。
そんなことを思いながらあくまで冷静に、鏡でいろんな角度から自身を堪能する鬼を眺めていた。
「……私にはやらなきゃいけないことがあるんです。だから今は、結婚だとかそんなこと、考えてる場合じゃないんです」
突き詰めてみた結論は、それだ。
例え求婚してきたのが鬼ではなく、人間の男性だったとしても。
また、それが非の打ち所がない完璧な相手だったとしても、だ。
恋人すら作る余裕もない私に、嫁ぐだの嫁がないだの、それほど不相応な話題はなかった。
閻火は鏡から離れこちらに向き直ると、また右手のひらからなにもない空間に物質を呼び出した。
先ほどの辞典のように分厚いものではなく、今度は幅の広い……A4サイズほどのファイルに似たものだった。
開かれた黒い表面には赤字で獄門帳と記され、その下にはなんと私のフルネームが続いている。ゴシック調のポップな字体がむしろ恐怖心を煽った。
「栗添萌香、九月九日生まれ、十九歳、好きな食べ物、おばあちゃんの手料理、嫌いな食べ物、なし……」
骨張った指先でぺらぺらと紙をめくっていく。閻火の口からこともなげに述べられる文字に、急に危機感を持った。
確か地獄の門番だと言っていた。
だとしたら――。
「右太もも裏に猫の形をした蒙古斑あり」
「ぎゃーーっ!」
焦ってファイルを取り上げようと突進するものの、ひらりとかわされ前のめりになりこけそうになった。
振り返った先の閻火は、ははん、といやらしい笑みを浮かべて私を見下ろしている。
「これは見るのが楽しみだな」とつぶやく閻火に、一生見せるものかと心の中で誓う。
それから閻火は「ほうほう、なるほど」と頷くと、納得したようにその書記を消した。
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