鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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求婚ナルシスト

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「お前を妻として迎える……どうだ、これで文句はあるまい」

 すっきりした表情をしているところ申し訳ないが、文句しかない。
 
「……あの、夫婦になるには、まず第一条件として、お互いに好きでなければいけないと思うんですが」
「そんなことは知っているぞ」

 うんうん、と得意げに大きく頷く彼。

「なので私たちは」
「好き合っているだろう」

 「は?」と空気とともに漏れる音。
 
 「誰と誰が?」と問いかけると「俺とお前に決まっているだろう」と、自分と私を交互に指差しながら当然のように答えられた。
 あまりに自信たっぷりに言われるので、なにか勘違いさせるような場面があったのだろうかと頭を悩ませてみる。
 けれど昨夜の出会いを再生してみても、思い当たる節は一切ない。
 そもそもまともに言葉すら交わしていない上に、彼は偽物の子供の姿をしていたというのに。

「あの見事な抱擁、父である先代の閻魔大王に抱き上げられて以来の素晴らしいものだった」

 まさかあの全力抱っこがこんな福音、いや、弊害をもたらすとは思っていなかった。

「あ、あれは迷子だと思って、あのままだと濡れちゃうから心配で連れて来ただけで」
「だからだ。咄嗟の言動にこそ本性が出るもの。お前に出会うまでに何人かに同じことを試したが、これほどまでに慈愛に満ちた対応をした女はいなかった。異形の姿を見ても嫌悪すら感じさせなかった」

 閻火は辞典を消すと身体をかがめ、長い手を伸ばして私の顎に添えた。
 
「俺は美しいものが好きだ、地獄は醜いものが溢れているからな。ごまかしが利く見てくれの話ではないぞ、核の部分の話だ」

 そう言って狡猾な笑みを浮かべた男は、私の顔を確かめるようにくまなく見つめていた。
 間近で視線が合うと、深い紅色が焼きついて離れない。
 その角と端正な口元から覗く牙は、まさに御伽噺や漫画などで見るあの生き物にそっくりではないか。
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