鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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求婚ナルシスト

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 心細さに胸が絞られ、目元から雫がこぼれ落ちそうになる。
 刹那、店の扉が開く音がして咄嗟に顔を上げた。

「いらっしゃいま――」

 泣いている場合ではないと、急ぎ迎えの言葉を発したけれど。おかしい。出入り口には誰もいない。
 けれど確かに、ちりんちりん、と鈴が鳴り、扉は開け放たれた状態になっている。
 
 赤くなった瞼を手の甲で擦り、首を傾げながらキッチンを出る。
 扉から身を乗り出し左右を見回してみるけれど、まばらな人通りの道が広がっているだけだ。うちに入ってこようと扉を開けたらしい人物は見当たらなかった。
 焦って帰ってきたから、ちゃんと閉まっていなかったのかもしれない。
 もしくは風の影響で?
 いや、今日は風すら感じない穏やかな天気だというのに。
 さまざまな可能性を吟味しながら、頭に疑問符を浮かべ、かちゃりと音がするまで扉を閉めきった。
 その数秒後、私はあらぬものを目にすることになる。

 光を帯びている。
 私自身が、と錯覚するほど、私の周り、いや、店内すべてを包み込む燃えるような光。
 ルビーを細かく散りばめたかの輝きが、背後から降り注いでいた。
 しばし動きを止めたあと、ゆっくりと後ろを振り返った途端、腰を抜かしてしまう。
 店内のテーブルで堂々たる姿を晒していたのは、大きな鳥に似た形をしたなにかだった。
 紅色べにいろの身体に立派なたてがみおうぎのように開いた翼と流れるような尻尾の先端は虹色に煌めいている。
 炎の宝石のような遮光を浴びながら、眩しさにおののきつつも目を逸らせなかった。

「迎えに来たぞ、俺の唯一無二の姫よ」

 風格の漂う低音が耳を支配し、ハッと目を見開いた。

「く、孔雀くじゃくがしゃべったぁ!?」
「失敬な、孔雀ではない、鳳凰ほうおうだ」

 鳳凰か不死鳥か、確かな名称などどうでもいい。
 先ほどまでコーヒーを淹れる練習をしていたのに、今のこの状況はなんなのか。
 不可思議な現象に見舞われ、理解が及ばす口をはくはくと動かした。
 けれど驚きはこれにとどまらない。
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