鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
16 / 158
求婚ナルシスト

しおりを挟む
「どうして……どんなにがんばっても、おばあちゃんの味が出せないっ……」

 本当は高校を卒業したら調理の専門学校に行く予定だった。
 喫茶店の経営者に必ずしも調理師の免許がいるわけではないけれど、小さな頃からおばあちゃんの跡を継ぐ気満々だった私は、役に立ちそうなものは持っておきたかった。
 専門学校で勉強し、卒業したら一緒に働いて、おばあちゃんからすべてを学び満を辞して店を任せてもらう。
 そんな未来予想図は、あの日突然崩れ去った。
 運悪く週に一度の定休日に倒れ、自分で救急車を呼んだ。間近に連絡を取っていた私に電話をくれたのは救急隊員の人だ。
 病気知らずで生きてきたおばあちゃんが、くも膜下出血で倒れそのまま戻らなかった。
 「百まで現役で活躍するわい」と、力こぶを作り笑いながら言っていたおばあちゃんが、六十八で私の前から消えた。
 まだまだ元気だと信じて疑わなかった。
 だから安心して、客側としていることばかりだった。
 たまに忙しい時は手伝うくらいで、社会人になればゆっくり教えてもらえばいいと、たかを括っていたのだ。
 なんて怠慢だろう。
 おばあちゃんがあまりに自然で楽そうに見えたから、私にだってできると。そんな気持ちがどこかにあったに違いない。
 まさかここまで大変だなんて思わなかった。
 おばあちゃんはよく気のつく人だった。
 しかも相手に気遣いを悟らせない、本当の優しさの人だった。
 おばあちゃんなら、お客様にあんなことを言わせない。
 おばあちゃんなら、お客様の感情の変化を見逃したりしない。
 おばあちゃんの店なら……こんなに閑古鳥が鳴くはずがない。
 ずっとおばあちゃんのそばにいて、なにをしていたんだろう。
 おばあちゃんが亡くなってから専門学校に入るのをやめ、急いで食品衛生責任者の資格だけ取った。
 心構えもないままに、知識も浅はかなままに、時間という波に押し急かされ、店主になった。

「おばあちゃんのバカっ……なんで死んじゃうの……私、私一人だけじゃ、何もできないよぉ……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。

こちら、あやかしも診れる診療所。

五嶋樒榴
キャラ文芸
あやかしだって、病気もすれば怪我もする。そして友達にもなれる。 あやかしの世界に診療所を作った俺は、代々あやかしを診る家系の医者だ。 あやかしだって、俺たち人間と変わらない。 友情だって生まれるんだ。 そして俺はその友情ゆえに、大切な親友を半妖にさせてしまった。 でも俺は、一生あいつの側にいる。 俺達は親友であり、相棒だからだ。

あやかし奏の宮廷絵巻~笛師の娘と辿る謎解き行脚~

ネコ
キャラ文芸
古き都では、雅(みやび)なる楽の音にあやかしが集まると信じられていた。名家の笛師を父に持つ凛羽(りんう)は、父の急逝を機に宮廷に呼び出され、皇女のもとで笛を吹く役を任される。華やかな后妃たちの居並ぶ中、艶やかな音色を奏でる日々が始まるが、同時に何者かが宮中で不思議な事件を引き起こしていた。夜毎に消える女官、姿を見せる妖しの影……笛の音に導かれるように、凛羽の前には謎の手掛かりが次々と浮かび上がる。音色に宿る不思議な力と、亡き父が研究していた古文書の断片を頼りに、凛羽は皇女や侍衛たちと手を組み、事件の真相を探り始める。あやかしを退けるのではなく、共に音を奏でる道を探す凛羽の思いは、やがて宮廷全体を動かしていく。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...