鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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求婚ナルシスト

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「どうして……どんなにがんばっても、おばあちゃんの味が出せないっ……」

 本当は高校を卒業したら調理の専門学校に行く予定だった。
 喫茶店の経営者に必ずしも調理師の免許がいるわけではないけれど、小さな頃からおばあちゃんの跡を継ぐ気満々だった私は、役に立ちそうなものは持っておきたかった。
 専門学校で勉強し、卒業したら一緒に働いて、おばあちゃんからすべてを学び満を辞して店を任せてもらう。
 そんな未来予想図は、あの日突然崩れ去った。
 運悪く週に一度の定休日に倒れ、自分で救急車を呼んだ。間近に連絡を取っていた私に電話をくれたのは救急隊員の人だ。
 病気知らずで生きてきたおばあちゃんが、くも膜下出血で倒れそのまま戻らなかった。
 「百まで現役で活躍するわい」と、力こぶを作り笑いながら言っていたおばあちゃんが、六十八で私の前から消えた。
 まだまだ元気だと信じて疑わなかった。
 だから安心して、客側としていることばかりだった。
 たまに忙しい時は手伝うくらいで、社会人になればゆっくり教えてもらえばいいと、たかを括っていたのだ。
 なんて怠慢だろう。
 おばあちゃんがあまりに自然で楽そうに見えたから、私にだってできると。そんな気持ちがどこかにあったに違いない。
 まさかここまで大変だなんて思わなかった。
 おばあちゃんはよく気のつく人だった。
 しかも相手に気遣いを悟らせない、本当の優しさの人だった。
 おばあちゃんなら、お客様にあんなことを言わせない。
 おばあちゃんなら、お客様の感情の変化を見逃したりしない。
 おばあちゃんの店なら……こんなに閑古鳥が鳴くはずがない。
 ずっとおばあちゃんのそばにいて、なにをしていたんだろう。
 おばあちゃんが亡くなってから専門学校に入るのをやめ、急いで食品衛生責任者の資格だけ取った。
 心構えもないままに、知識も浅はかなままに、時間という波に押し急かされ、店主になった。

「おばあちゃんのバカっ……なんで死んじゃうの……私、私一人だけじゃ、何もできないよぉ……!」
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