鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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理想と現実

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 ふと、顔を上げ辺りを見回すと、乳白色に漂う空気に包まれている。
 まるで深い霧の中に立っているようだ。
 初めての現象に、戸惑いながらも耳を傾ける。
 次第に激しさを増す雨音に紛れるように、やはり確かに、かすかな声がした。
 聞き逃さないよう集中しながら、探るように足を進める。
 傘を持ってくるのも忘れていた。
 取りに帰れば消えてしまうような気がして。

 あっという間にできた水たまりを踏みしめながら、首を左右に動かしたどり着いたのは、喫茶店の裏側だった。
 隣接する花屋との間にできた細い道を通り抜けた先に、小さな人影を見つけたのだ。
 真っ白な雨と霧が混ざり合う中、立ち止まり俯いている。
 額に手を当て雨を遮るようにすると、目を細めてその子に近づいた。

「私……僕、かな? どうしたの、こんなところで」

 外れの商店街はシャッターが下りている店も多く、表通りでさえ人の往来はまばらだ。
 裏道に至っては、まったく人気ひとけがない。
 そんな場所に、どうして子供が?
 もしかして親とはぐれたのだろうか?
 思考を巡らせながらさらに距離を詰めると、私より半分ほどの背丈しかないことが窺えた。
 両手で目を塞ぎ、ぐすぐす、と音を立てながら肩を振動させている。
 シンプルなTシャツとズボンは白く霞んだ空気中でも、目立つほどの濃い赤色だった。
 
「パパとママはどこ――」

 目の前に立ち止まり、その子と同じ目線までしゃがんだ時、あることに気がつき言葉を切った。

 首元まである髪まで赤い。
 いや、それよりも私の目を引いたのは、その濡れた前髪を中央から貫くように出っぱっている鋭い尖りだ。
 瞬きを繰り返す度、揺らめくように色を変えるそれ。
 
 小学生の中で流行っているおもちゃだろうか?
 それでなければきっと、この悪天候か視力が低下したせいの見間違いのはずだ。
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