6 / 158
理想と現実
5
しおりを挟む
絵で物語を表現するには時間がかかる。
漫画では何巻にも及ぶ展開が、文字だけとなるとたった一冊に収まったりするのだ。
つまりそれは、お財布にも優しいということ。
友達と出かけることも滅多になくなった、一人暮らしの私にとって、夜は長い。
最初はびっしり詰まった文字を見るだけでくらくらしたけれど、慣れた今では寝る前に布団の中で読書をするのが楽しみになっていた。
読み終わればこうして顔を合わせた時に返却し、また来る時に新しいのを貸してもらう。
藍之介は私専用の図書館のようだ。
「でもほんと意外だよね、藍之介がこういうロマンチックな話が好きなんて」
「意外は余計」
「あはは、ごめんごめん」
元々は藍之介の愛読書なんて、とても私には理解できない小難しい辞典のような類かと思っていた。
それがあやかしや精霊……鬼などの、いわゆる人外と人間の女の子が恋に落ちる、ライト文芸と呼ばれるものだと知った時は驚いた。
そのおかげで小説に馴染みのなかった私でも、抵抗なく入り込むことができたのかもしれない。
パステルカラー調の色鮮やかな表紙絵も私好みだ。
「……こういう人智を超えた存在が生涯のパートナーだったら、いいと思わない?」
「え? なんで?」
「だってなんだってできるだろ、人間なんかよりずっとすごいじゃないか」
探るように尋ねられ、その場に立ったまま顎に手をやり頭を捻った。
「うーん、それは全然思わないな、だって私人間だし、結婚するなら同じ人間の男の人がいいもん。こういうのは作り話だから萌えるんだよ、きっと」
私の答えを聞いた藍之介は、透明感のある瞳をじとっと細めたあと、視線を下げて息をついた。
「あれ、私なにか変なこと言った?」
「いや、別に……」
藍之介は時々、寂しいような険しいような、複雑な表情を見せる。
恋愛の話をする時は大抵そうかも。
モテるのにどうして彼女を作らないのか聞いてもはぐらかすし。
きっと私の足りない脳細胞では汲み取れない、彼だけの世界があるのだろうと感じている。
漫画では何巻にも及ぶ展開が、文字だけとなるとたった一冊に収まったりするのだ。
つまりそれは、お財布にも優しいということ。
友達と出かけることも滅多になくなった、一人暮らしの私にとって、夜は長い。
最初はびっしり詰まった文字を見るだけでくらくらしたけれど、慣れた今では寝る前に布団の中で読書をするのが楽しみになっていた。
読み終わればこうして顔を合わせた時に返却し、また来る時に新しいのを貸してもらう。
藍之介は私専用の図書館のようだ。
「でもほんと意外だよね、藍之介がこういうロマンチックな話が好きなんて」
「意外は余計」
「あはは、ごめんごめん」
元々は藍之介の愛読書なんて、とても私には理解できない小難しい辞典のような類かと思っていた。
それがあやかしや精霊……鬼などの、いわゆる人外と人間の女の子が恋に落ちる、ライト文芸と呼ばれるものだと知った時は驚いた。
そのおかげで小説に馴染みのなかった私でも、抵抗なく入り込むことができたのかもしれない。
パステルカラー調の色鮮やかな表紙絵も私好みだ。
「……こういう人智を超えた存在が生涯のパートナーだったら、いいと思わない?」
「え? なんで?」
「だってなんだってできるだろ、人間なんかよりずっとすごいじゃないか」
探るように尋ねられ、その場に立ったまま顎に手をやり頭を捻った。
「うーん、それは全然思わないな、だって私人間だし、結婚するなら同じ人間の男の人がいいもん。こういうのは作り話だから萌えるんだよ、きっと」
私の答えを聞いた藍之介は、透明感のある瞳をじとっと細めたあと、視線を下げて息をついた。
「あれ、私なにか変なこと言った?」
「いや、別に……」
藍之介は時々、寂しいような険しいような、複雑な表情を見せる。
恋愛の話をする時は大抵そうかも。
モテるのにどうして彼女を作らないのか聞いてもはぐらかすし。
きっと私の足りない脳細胞では汲み取れない、彼だけの世界があるのだろうと感じている。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
薔薇の耽血(バラのたんけつ)
碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。
不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。
その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。
クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。
その病を、完治させる手段とは?
(どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの)
狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。

糧給支部・厨房班、賄い娘の奮闘記〈1〉
翠晶 瓈李
キャラ文芸
妖霊を退治する戦闘師団がある『晶蓮国』。
中でも特に優れた戦闘能力を持つ者は『護闘士』と呼ばれていた。
護闘士たちが生活する班隊でご飯を作る担当になった女の子、那峰 ひよりちゃん(主人公)のお話。

下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる