鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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理想と現実

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 絵で物語を表現するには時間がかかる。
 漫画では何巻にも及ぶ展開が、文字だけとなるとたった一冊に収まったりするのだ。
 つまりそれは、お財布にも優しいということ。
 友達と出かけることも滅多になくなった、一人暮らしの私にとって、夜は長い。
 最初はびっしり詰まった文字を見るだけでくらくらしたけれど、慣れた今では寝る前に布団の中で読書をするのが楽しみになっていた。
 読み終わればこうして顔を合わせた時に返却し、また来る時に新しいのを貸してもらう。
 藍之介は私専用の図書館のようだ。

「でもほんと意外だよね、藍之介がこういうロマンチックな話が好きなんて」
「意外は余計」
「あはは、ごめんごめん」

 元々は藍之介の愛読書なんて、とても私には理解できない小難しい辞典のような類かと思っていた。 
 それがあやかしや精霊……鬼などの、いわゆる人外じんがいと人間の女の子が恋に落ちる、ライト文芸と呼ばれるものだと知った時は驚いた。  
 そのおかげで小説に馴染みのなかった私でも、抵抗なく入り込むことができたのかもしれない。
 パステルカラー調の色鮮やかな表紙絵も私好みだ。

「……こういう人智を超えた存在が生涯のパートナーだったら、いいと思わない?」
「え? なんで?」
「だってなんだってできるだろ、人間なんかよりずっとすごいじゃないか」

 探るように尋ねられ、その場に立ったまま顎に手をやり頭を捻った。

「うーん、それは全然思わないな、だって私人間だし、結婚するなら同じ人間の男の人がいいもん。こういうのは作り話だから萌えるんだよ、きっと」

 私の答えを聞いた藍之介は、透明感のある瞳をじとっと細めたあと、視線を下げて息をついた。

「あれ、私なにか変なこと言った?」
「いや、別に……」

 藍之介は時々、寂しいような険しいような、複雑な表情を見せる。
 恋愛の話をする時は大抵そうかも。
 モテるのにどうして彼女を作らないのか聞いてもはぐらかすし。
 きっと私の足りない脳細胞では汲み取れない、彼だけの世界があるのだろうと感じている。
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