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6.君と命の呼吸
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転ばないように、身体を大切に扱いながら、歩いて海に向かう。
麦わら帽子と、お腹を締めつけないゆったりとしたワンピース、歩きやすいスニーカー。
漁船が並ぶ岸辺に着くと、年配の漁師たちに紛れて、一際目を惹く若い船長がいる。
私の視線に気づくと、彼は漁師たちとの話を中断して、こちらを振り返り手を上げた。
「ひな!」
海斗は――相変わらず、可愛い。
太陽に照らされ、キラキラ、八重歯と銀のピアスが輝く。
「どうしたんだひなちゃん、えらくすっきりした顔して」
「ほんとほんと、何かいいことでもあった顔だな」
「ふふ、わかりますか?」
お義父さんと漁師たちの言葉に微笑みで応えると、彼らは吉報を察したようだった。
けれど、肝心の海斗は不思議そうに瞬きをし、首を傾げていた。
「海斗は鈍感だから検討がつかねんだ」
「最年少船長だってのに、魚とひなちゃんのことしか頭にねえから」
「えぇ、俺だけ仲間外れ? いいことって何何、教えてひな」
私の中に宿った小さな鼓動。
海斗がいなければ、望めなかった出会い。
「海斗、あのね」
この子が生まれたら教えてあげよう。
あなたのお父さんは誰より一番、命の呼吸が上手なんだよ、って。
――おしまい――
麦わら帽子と、お腹を締めつけないゆったりとしたワンピース、歩きやすいスニーカー。
漁船が並ぶ岸辺に着くと、年配の漁師たちに紛れて、一際目を惹く若い船長がいる。
私の視線に気づくと、彼は漁師たちとの話を中断して、こちらを振り返り手を上げた。
「ひな!」
海斗は――相変わらず、可愛い。
太陽に照らされ、キラキラ、八重歯と銀のピアスが輝く。
「どうしたんだひなちゃん、えらくすっきりした顔して」
「ほんとほんと、何かいいことでもあった顔だな」
「ふふ、わかりますか?」
お義父さんと漁師たちの言葉に微笑みで応えると、彼らは吉報を察したようだった。
けれど、肝心の海斗は不思議そうに瞬きをし、首を傾げていた。
「海斗は鈍感だから検討がつかねんだ」
「最年少船長だってのに、魚とひなちゃんのことしか頭にねえから」
「えぇ、俺だけ仲間外れ? いいことって何何、教えてひな」
私の中に宿った小さな鼓動。
海斗がいなければ、望めなかった出会い。
「海斗、あのね」
この子が生まれたら教えてあげよう。
あなたのお父さんは誰より一番、命の呼吸が上手なんだよ、って。
――おしまい――
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