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5.ふたりで、ひとつ
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駆け出す足を理人に止められ、ともにタクシーで海斗の自宅に向かった。
目的地に到着し、私たちが車内から降りるや否や、昔ながらの瓦屋根に茶色いいで立ちのから平屋から、一人の少年が飛び出した。
「この、バカが! そんなことしたって迷惑なだけだって何度言ったらわかんだ!」
海斗はお父さんに殴られた勢いで玄関扉から外に放たれ、しりもちをついていた。
「うるせえ! 俺の身体なんだから俺が好きにして何が悪りいんだよ!」
「この、一人ででかくなったような面しやがって、バカ息子!」
「なんだとこのバカ親父!」
立ち上がった海斗も負けじと対抗し、二人は家の前で取っ組み合いになった。
私が近づくとその気配を察知したのか、ようやく海斗はこちらを見た。
今にも泣き出しそうに、苦しげな顔。
病院で目にしたのと同じ、こんな海斗は初めてだった。
「ひなちゃん、こいつ」
「言うなよバカ!」
「知ってる」
口を挟んだ私を、海斗はショックを受けたように見つめた。
海斗のお父さんが言おうとしたことが、すぐにわかった。
二人が今、言い争いになっている原因が。
『生体肺移植は二十歳以上、配偶者、または三親等以内じゃないといけないと決まっているわ。だから無理だと言ってるのに、あきらめなくてね』
お姉ちゃんの言葉を思い出す。
あの瞬間を忘れない。
『海斗くん、陽波に自分の肺をあげたい、って』
目的地に到着し、私たちが車内から降りるや否や、昔ながらの瓦屋根に茶色いいで立ちのから平屋から、一人の少年が飛び出した。
「この、バカが! そんなことしたって迷惑なだけだって何度言ったらわかんだ!」
海斗はお父さんに殴られた勢いで玄関扉から外に放たれ、しりもちをついていた。
「うるせえ! 俺の身体なんだから俺が好きにして何が悪りいんだよ!」
「この、一人ででかくなったような面しやがって、バカ息子!」
「なんだとこのバカ親父!」
立ち上がった海斗も負けじと対抗し、二人は家の前で取っ組み合いになった。
私が近づくとその気配を察知したのか、ようやく海斗はこちらを見た。
今にも泣き出しそうに、苦しげな顔。
病院で目にしたのと同じ、こんな海斗は初めてだった。
「ひなちゃん、こいつ」
「言うなよバカ!」
「知ってる」
口を挟んだ私を、海斗はショックを受けたように見つめた。
海斗のお父さんが言おうとしたことが、すぐにわかった。
二人が今、言い争いになっている原因が。
『生体肺移植は二十歳以上、配偶者、または三親等以内じゃないといけないと決まっているわ。だから無理だと言ってるのに、あきらめなくてね』
お姉ちゃんの言葉を思い出す。
あの瞬間を忘れない。
『海斗くん、陽波に自分の肺をあげたい、って』
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