君と命の呼吸

碧野葉菜

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4.ほどける心

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「……絶対、陽波の病状を知ったら怖気づいて逃げてくと思ったのに……悪かったな、魚が臭いとか、女を釣るとか、バカにするようなこと言って」
「理人……」

 理人の歩み寄る姿勢に、安堵と歓喜を覚える。感情的な面もあるけれど、やっぱり理人は強くて賢い人だと改めて思った。
 海斗は意外な謝罪に面食らった後、腰に手を当て少し胸を張った。

「わかればいいって、つうか逃げねえから、今までいろいろあったらしいけどこれからは俺がいるし、ひなのことは任せてもらって大丈夫だから」

 海斗の宣言に、今度は理人が驚いた。
 
「まさかお前からそんなまともな台詞が出てくるとはな。頼もしくはあるが、まだ完全に信用したわけじゃない、これからも一定の距離は保ちながら見守らせてもらうからな」

 腕を組みながら話す理人の表情は、厳しい言葉に反し穏やかだった。

「そんな気になるならあんたも一緒に来ればいいじゃん、最高に美味い魚介食わせてやるぞ」
「……考えとく」
「素直じゃねえなあ、ひなはうち来るよな? 父ちゃんにも紹介してえし」

 突然の誘いに、緊張しながらも小さく頷く。
 実家にお邪魔して、一緒に食卓を囲む。
 ということは、もしかしたら。

「海斗が魚捌いてるとこ、見れる?」
「そりゃあ……って何、俺が魚捌くとこ見たかったのか?」
「うん」

 海斗は両手で顔面を押さえて、後ろにのけ反り倒れそうだった。

「ああ、ひなが可愛い、萌えポイントが独特すぎてそんなとこも好き」
「腹は立つが気持ちはわかる」

 海斗と理人のやり取りが深刻さからかけ離れていて、不謹慎ながら笑ってしまった。
 
 この時点で私は、海斗に頼りすぎていたのだと思う。
 海斗の明るさに救われ、彼が背負っているものに気づけていなかった。 
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