君と命の呼吸

碧野葉菜

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4.ほどける心

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 ついに溢れてしまった想いは、唇に生まれた温かな感触に受け止められた。
 刹那の幸せは、噛みしめる前にそっと離れてゆく。
 間近で目が合った海斗は、自分がしたことに気づくと耳まで赤くして焦っていた。

「わあ! ご、ごめん!?」
「ごめん……?」
「いや、う、後ろめたいとかじゃなくて、ひなが可愛いすぎていきなりしちまったから、その、嫌だったらごめんって意味で!」

 思い出す。乾いたような、濡れたような、浜辺で感じたあの重なりを。

「でももう、私たちしてるんじゃ」
「え……? あ、ああっ、人工呼吸は別っていうか、数に入れちゃいけねえような?」
「海斗のなら、数に、入れたい」

 海斗は一瞬驚いたように目を開いた後、息を呑むように真剣な面持ちになると改めて私を見つめた。
 海斗の男の子の部分が、垣間見える。
 いつも純粋一色の瞳は、求めるように熱を帯び揺らめいて、壊れそうなほど胸が高鳴った。
 
「……もう一回、してもいい?」
「……うん」
「もう一回」
「……ん」
「もう、一回……」

 頬に手を添えられ、確認しては何度も、柔らかく、触れる唇。
 宝物を扱うように、優しく、あくまで愛情深く繰り返されるその行為は、まるで呼吸の仕方を教えてくれるようだった。

「不思議なの、海斗といるとね、すごくドキドキするのに、息がしやすくて、安心できる」

 照れくさそうに微笑む海斗に、腕の中に閉じ込められる。

「海斗を知ったら、死ぬの、怖くなっちゃった……前までは、眠ったまま目が覚めなかったらいいのにって、よく思ったのに」
「怖くて当たり前じゃん、俺だってひなとずっと一緒にいたい……」

 海斗の抱く力が、強くなる。

「どうやったらひなの不安が減るんだろ、口ではなんとでも言えるし……俺の中身、全部ひなに見せられたらいいのに」

 少し汗ばむ海斗の香りに包まれながら、死への恐怖を拭い去れないまま、この世に生を受けたことを感謝した。
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