君と命の呼吸

碧野葉菜

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4.ほどける心

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 こんなこと、言いたくなかった。
 せめて海斗の前では、初めて好きになった人の記憶には、綺麗な思い出として残りたかったのに。

「移植だって、成功するかわからない、成功したって、五年生存率は七十パーセントくらいしかないし、時間が経つほど確率は減っていくし」
「肺移植って、臓器移植の中で一番難しいんだよな?」

 どうしてそれを知っているのか。
 不思議に感じ、思わず顔を上げ海斗を見た。

「俺なりに調べたんだ。ひなの病気のこと」
「……ど、して」
「そんなの」

 呟くように口にした後、振り向いた海斗は私よりずっと苦しげで、泣いているのかと思った。

「ひなが好きだからに決まってるじゃん! ひなが病気だってわかったからって、じゃあやめるって、そんな……もうとっくにそんな軽い気持ちじゃねえんだって!」

 真っ正面からぶつかってくる、海斗の濁りのない瞳と叫び。
 逃げたいのに、逃げられない。
 私に泣く資格なんてないと思うのに、意思に反してほどける涙腺。
 海斗の温度に頑なな氷が溶けるように、しとしとと瞼が濡れた。

「……そんなこと、言われたら、私……海斗に寄りかかっちゃう……重いよ? 病気って、本人だけじゃなく周りまで不幸にする、海斗なら、他にいくらでも、元気で明るい女の子との将来が望めるのに、あえて私みたいな面倒な子、選ぶ必要なんて」
「俺はひながいい、ひなじゃなきゃ嫌だ、だから他の男にひなを譲る気もねえし、離れる気もねえ……ひなは、俺のことどう思ってんの? 身体のこととか、俺に悪いとか、そういうの全部取っ払って、ひなの本当の気持ちが知りたい」

 迫る眼差しは容赦なく私を射抜く、真夏の光線。
 焦がれたい。焦がされたい。
 例え薄命だと知っていても。

「……うみ、と……だい、すき」
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