33 / 45
4.ほどける心
6
しおりを挟む
その時、海斗の耳からいつものピアスがすべて消えていることに気がついた。
「海斗……ピアス、どうしたの?」
「外した、もうつけねえ」
「え? ど、どうして」
海斗は切なげに目を細めた。
「だって、ひな、俺の落としたピアス取り戻すために海に入ったんだろ? 助けた後、手に握りしめてた」
海に足を取られた後のことは、意識が混濁していて不鮮明だ。
掴んだピアスの行く末は知らなかったけれど、ずっと私の手の内にあったらしい。
「母ちゃんには悪いけどさ、形見なんかよりひなの方が遥かに大事だから、ひなに危ないことさせるくらいならいらねえ」
少し怒ったように訴える強い眼差しは、優しさの刃となり身体中に食い込む。
「せっかく似合ってたのに、もったいないよ」
「ひながもう無茶しないって約束してくれるなら、つける」
海斗の口ぶりは、先を思わせる。
私とのこれからを、連想させる。
「ねえ、海斗」
「何?」
「もう、終わりにしよう」
度胸のない私は、海斗の顔を見ることができなかった。
自分の痩せた不健康な手に視線を落としながら、口にするのがやっとだった。
訪れる静寂が、肌を刺す。
海斗は今どんな顔をしているのだろう。
考えるだけで、怖かった。
「……なんで?」
ぽたり、滴がこぼれるように漏れた海斗の低い声に、鼓膜がぴりりと揺れた。
「終わりって、もう俺と会わないってこと? あいつ……理人って奴に、夢を見たかったって言ってたけど、なら、俺はひなにとって現実じゃないってことなのか?」
「現実に……しちゃ、いけないん、だよ。海斗はまだ詳しく知らないだろうけど、私」
俯いたまま、避けられない現実を話し始める。
「肺移植をしなくちゃ、命を繋げないの。最近状態も悪化して、それで、環境のいい場所に、って、ここに来たの。移植の待機期間が二、三年で、私はもう二年待ってるから、そろそろかなって……手術に向けて体調を整えるために」
「海斗……ピアス、どうしたの?」
「外した、もうつけねえ」
「え? ど、どうして」
海斗は切なげに目を細めた。
「だって、ひな、俺の落としたピアス取り戻すために海に入ったんだろ? 助けた後、手に握りしめてた」
海に足を取られた後のことは、意識が混濁していて不鮮明だ。
掴んだピアスの行く末は知らなかったけれど、ずっと私の手の内にあったらしい。
「母ちゃんには悪いけどさ、形見なんかよりひなの方が遥かに大事だから、ひなに危ないことさせるくらいならいらねえ」
少し怒ったように訴える強い眼差しは、優しさの刃となり身体中に食い込む。
「せっかく似合ってたのに、もったいないよ」
「ひながもう無茶しないって約束してくれるなら、つける」
海斗の口ぶりは、先を思わせる。
私とのこれからを、連想させる。
「ねえ、海斗」
「何?」
「もう、終わりにしよう」
度胸のない私は、海斗の顔を見ることができなかった。
自分の痩せた不健康な手に視線を落としながら、口にするのがやっとだった。
訪れる静寂が、肌を刺す。
海斗は今どんな顔をしているのだろう。
考えるだけで、怖かった。
「……なんで?」
ぽたり、滴がこぼれるように漏れた海斗の低い声に、鼓膜がぴりりと揺れた。
「終わりって、もう俺と会わないってこと? あいつ……理人って奴に、夢を見たかったって言ってたけど、なら、俺はひなにとって現実じゃないってことなのか?」
「現実に……しちゃ、いけないん、だよ。海斗はまだ詳しく知らないだろうけど、私」
俯いたまま、避けられない現実を話し始める。
「肺移植をしなくちゃ、命を繋げないの。最近状態も悪化して、それで、環境のいい場所に、って、ここに来たの。移植の待機期間が二、三年で、私はもう二年待ってるから、そろそろかなって……手術に向けて体調を整えるために」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
漁村
ジョン・グレイディー
現代文学
第二の人生を海に求める男
積雪の中、悠久の街道を海に向かって北上する。
漁師になることを夢見ながら、寂れた漁村での男の生活が始まる。
ある日、漁港の防波堤でロットを振る若い女に出会う。
男は女に釣りを教えながら、過去の淡い因果を女の中に感じ取る。
男と女の運命的な繋がりが見え隠れする中、2人はこの寂れた漁村での共同生活を始め出す。
男は、失ったはずの夢と恋を海に求める。
人生に頓挫した中年男性と突如として現れた若い女性との人間ドラマ。
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
君のために僕は歌う
なめめ
青春
六歳の頃から芸能界で生きてきた麻倉律仁。
子役のころは持てはやされていた彼も成長ともに仕事が激減する。アイドル育成に力を入れた事務所に言われるままにダンスや歌のレッスンをするものの将来に不安を抱いていた律仁は全てに反抗的だった。
そんな夏のある日、公園の路上でギターを手に歌ってる雪城鈴菜と出会う。律仁の二つ上でシンガーソングライター志望。大好きな歌で裕福ではない家族を支えるために上京してきたという。そんな彼女と過ごすうちに歌うことへの楽しさ、魅力を知ると同時に律仁は彼女に惹かれていった………
恋愛、友情など芸能界にもまれながらも成長していく一人のアイドルの物語です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜
green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。
しかし、父である浩平にその夢を反対される。
夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。
「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」
一人のお嬢様の挑戦が始まる。
ほんの少しの世界を映し出す。
神崎郁
青春
僕と彼女、春野千咲は幼馴染だった。
中学に上がってから彼女は写真を撮ることに固執し始め、やがて交通事故でその命を散らした。
抜け殻のように生きてきた僕が、想い出の場所で彼女が遺した壊れたカメラを構える時、時間が巻き戻る。
果たして僕は彼女に何が出来るだろうか。
タイムリープ青春ファンタジー。
※カクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる