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4.ほどける心
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肺が炎症を起こしたのか、二日間、高熱にうなされた。
そうして次に気がついたのは、病院のベッドの上だった。
真っ白で無機質な清廉さを守る、見慣れた天井。
今までで最も寝覚めの悪い朝だった。
傍らには、お姉ちゃんがいた。
彼女は私の瞳が静かに開いたことを認めると、苦しげに表情を歪めた。
医師として勤めている時に使用している、シャープな赤縁のメガネから覗く瞳が潤んでいた。
「ごめんなさい」
開口一番に漏らした言葉に、お姉ちゃんは目を見張った。
白衣の彼女の腕に支えられながら、水色の患者着姿の私は上半身を起こすと、かけられていた柔らかな布団の端を両手で握りしめた。
「……ごめんなさい、迷惑、かけて、ごめんなさい、海斗は、悪くないの、私が、騙したの、だから、海斗を責めないで、お願い」
まだ覚醒しきらない脳でも、罪悪感だけはありありと浮かぶ。
こんな危険な事態に巻き込んでしまった、何も知らない海斗が悪く言われるのだけは避けたかった。
「……理人から、全部聞いたわ」
「お姉ちゃん、海斗は何もっ」
「落ち着きなさい、わかってるから」
お姉ちゃんは、神妙な面持ちで口を開いた。
「あなたが寝込んでいる間、理人と話をしたの。……確かに、私たちは、陽波に必要以上に干渉しすぎたんじないか、って。陽波は目を離したら消えてしまいそうに儚くて、失いたくなくて……守らなきゃって、使命感のような気持ちがいつの間にかエスカレートして、あなたを締めつける鎖のようになっていたのかもしれない」
私の手はお姉ちゃんのそれに柔らかく包まれた。
「ただでさえあなたは自分が病弱であることを罪に思っているのに、それをわかっていたはずなのに、何も言わないのをいいことに私たちのやり方が正しいとおしつけてた。……言えなく、していただけなのにね。きちんと話ができていたら、相談できる環境があれば、黙ってこんな危ないことをすることもなかったでしょうに……」
そうして次に気がついたのは、病院のベッドの上だった。
真っ白で無機質な清廉さを守る、見慣れた天井。
今までで最も寝覚めの悪い朝だった。
傍らには、お姉ちゃんがいた。
彼女は私の瞳が静かに開いたことを認めると、苦しげに表情を歪めた。
医師として勤めている時に使用している、シャープな赤縁のメガネから覗く瞳が潤んでいた。
「ごめんなさい」
開口一番に漏らした言葉に、お姉ちゃんは目を見張った。
白衣の彼女の腕に支えられながら、水色の患者着姿の私は上半身を起こすと、かけられていた柔らかな布団の端を両手で握りしめた。
「……ごめんなさい、迷惑、かけて、ごめんなさい、海斗は、悪くないの、私が、騙したの、だから、海斗を責めないで、お願い」
まだ覚醒しきらない脳でも、罪悪感だけはありありと浮かぶ。
こんな危険な事態に巻き込んでしまった、何も知らない海斗が悪く言われるのだけは避けたかった。
「……理人から、全部聞いたわ」
「お姉ちゃん、海斗は何もっ」
「落ち着きなさい、わかってるから」
お姉ちゃんは、神妙な面持ちで口を開いた。
「あなたが寝込んでいる間、理人と話をしたの。……確かに、私たちは、陽波に必要以上に干渉しすぎたんじないか、って。陽波は目を離したら消えてしまいそうに儚くて、失いたくなくて……守らなきゃって、使命感のような気持ちがいつの間にかエスカレートして、あなたを締めつける鎖のようになっていたのかもしれない」
私の手はお姉ちゃんのそれに柔らかく包まれた。
「ただでさえあなたは自分が病弱であることを罪に思っているのに、それをわかっていたはずなのに、何も言わないのをいいことに私たちのやり方が正しいとおしつけてた。……言えなく、していただけなのにね。きちんと話ができていたら、相談できる環境があれば、黙ってこんな危ないことをすることもなかったでしょうに……」
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