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3.夢の戯れ
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「ひな、そろそろ上がろう」
海斗の声に、ハッとして前を見た。
すると、心配そうに私を映す瞳と視線が交差する。
「……まだ」
「ダメだ、顔色も悪い気がするし、水ん中ってけっこう体力奪われるから」
「じゃあ、少し休んでから、また」
「それ、もう何回もしてるから、今日はおしまい」
海に入っては砂浜に出て、海斗が用意してくれていたパラソルの下で休み、また入る。
そんなことを何度繰り返しただろう。
海水を飲まないよう、なるべく肺に負担をかけないよう、努力はしたけれど、疲労は限界に来ていた。
それでも帰りたくなかった。
夢が、覚めてしまう。
「そんな寂しそうな顔しないで、また一緒に来ればいいじゃん、な?」
――私に「また」は、ないんだよ?
そんな言葉が喉元まで出かかって、泣き出しそうな想いと一緒に飲み込んだ。
「……うん、そう、だよね」
海斗に不審に思われないよう、必死に作り笑いをすると、その手に引かれ波打ち際まで歩いた。
どれだけ時間が経ったのだろう、来た時に比べると少数ながら水着姿で遊ぶ人たちが見受けられた。
ふと、海斗の外見に違和感を覚える。
耳に、何かが足りない気がした。
二つしていたはずの銀の輪っかのピアスが、一つになっていた。
「海斗……ピアス、丸いリングのやつが」
「え?」
海斗は私に指摘され、左耳を触ったことで初めてピアスをなくしたことに気づくと驚きの声を上げた。
その慌て方は、簡単に手に入る物を失ったにしてはいささか大袈裟に思われた。
「何か大切な物だったの?」
「あ……ああ、うん、一応、母ちゃんの形見だから」
「え?」
「でもまあ仕方ねえよ、こんな海ん中で見つかるわけねえし、他にもあるから。そんなことより、なんか飲み物とタオル持って来るから待っててな」
海斗は残念そうな顔をすぐに切り替えると、離れた先にあるパラソルの下の荷物置き場に向かった。
海斗の声に、ハッとして前を見た。
すると、心配そうに私を映す瞳と視線が交差する。
「……まだ」
「ダメだ、顔色も悪い気がするし、水ん中ってけっこう体力奪われるから」
「じゃあ、少し休んでから、また」
「それ、もう何回もしてるから、今日はおしまい」
海に入っては砂浜に出て、海斗が用意してくれていたパラソルの下で休み、また入る。
そんなことを何度繰り返しただろう。
海水を飲まないよう、なるべく肺に負担をかけないよう、努力はしたけれど、疲労は限界に来ていた。
それでも帰りたくなかった。
夢が、覚めてしまう。
「そんな寂しそうな顔しないで、また一緒に来ればいいじゃん、な?」
――私に「また」は、ないんだよ?
そんな言葉が喉元まで出かかって、泣き出しそうな想いと一緒に飲み込んだ。
「……うん、そう、だよね」
海斗に不審に思われないよう、必死に作り笑いをすると、その手に引かれ波打ち際まで歩いた。
どれだけ時間が経ったのだろう、来た時に比べると少数ながら水着姿で遊ぶ人たちが見受けられた。
ふと、海斗の外見に違和感を覚える。
耳に、何かが足りない気がした。
二つしていたはずの銀の輪っかのピアスが、一つになっていた。
「海斗……ピアス、丸いリングのやつが」
「え?」
海斗は私に指摘され、左耳を触ったことで初めてピアスをなくしたことに気づくと驚きの声を上げた。
その慌て方は、簡単に手に入る物を失ったにしてはいささか大袈裟に思われた。
「何か大切な物だったの?」
「あ……ああ、うん、一応、母ちゃんの形見だから」
「え?」
「でもまあ仕方ねえよ、こんな海ん中で見つかるわけねえし、他にもあるから。そんなことより、なんか飲み物とタオル持って来るから待っててな」
海斗は残念そうな顔をすぐに切り替えると、離れた先にあるパラソルの下の荷物置き場に向かった。
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