君と命の呼吸

碧野葉菜

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2.手を伸ばせば壊れてしまう。

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「ひな、もしかして泳いでみたいのか? 前会った時も泳ぎのこと言ってたし、よかったら海……入ってみる?」

 海斗の言葉は、光をくれる。

「すぐ側の海なら歩いて行けるし、俺がいたら危なくねえと思うんだけど。……もちろんひながよかったら、の話」

 顔色を窺うように、優しげに揺れる瞳。
 いいのだろうか、この光に手を伸ばしても。
 ――伸ばしたい。幻を、掴んでみたかった。

「……うん、行きたい」
「ホント!?」
「うん、でも私、海はその、初めてで、好きなんだけど、なかなか入る機会がなかったっていうか……だから、ちゃんと泳いだりできないと思うから、海斗にとってはつまらないかもしれないけれど、それでもいい?」
「そんなのいいに決まってるじゃん、ひなが一緒ならそれだけで嬉しい!」

 感覚が、麻痺しそうになる。
 海斗を見ていると、まるで自分も健康な、普通の女の子になれたような。

「でも、海斗って忙しいよね? 学校に、漁にも出てたら」
「言われてみればじっとしてることってほとんどねえかも。学校行ってるか漁に出てるか飯食ってるか寝てるか?」
「すごい、活動的だね」
「でもひなと遊べるなら時間作る、なんなら学校サボる」
「それはダメ」
「ごめんなさい」

 海斗の無邪気なわがままと謝罪が可愛くて、思わず笑ってしまった。

「……じゃあ、少し先になるんだけど、来週の土曜日でも、いい?」
「全然オッケー! まだ夏休み前だから人もいねえし……まあ夏休み中でもそんなにいねえけど」
「いいと思うよ、私人混み苦手だから」
「そう!? 朝から行ったらたぶん誰もいねえぞ!」
「うん、なら早めに行こう」

 全身で歓喜を表現する海斗に、口元が綻ぶ。
 それから私たちは、スマートフォンの通話アプリの連絡先を交換した。
 
 満面の笑みで帰路に着く海斗を見送りながら、自然体でいられた自分に気がついた。
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