君と命の呼吸

2.手を伸ばせば壊れてしまう。

3

　こちらに気づく様子もなく、他の子たちと笑いながら去って行った海斗を見て、針に刺されたかのように鋭く胸が痛んだ。
　
　――あれが海斗の日常。
　たった数分話しただけでも、海斗が自分とは正反対の人間だということはわかっていた。
　クラスでいつも、中心になる存在。　
　そこにいるだけで、場の空気が明るくなるような人。
　学校を休みがちで、人見知りで、なかなか友達ができない、私とは別世界の人。
　
「……何考えてたんだろう、バカみたい」

　海斗にとっては三日前の出来事も、特別ではなかったのだろう。
　一人で盛り上がって、彼にまた会えただなんて喜んで家を出て来てしまった自分がひどく滑稽に思えた。

　――帰ろう。
　もう二度と、部屋から出ない。
　やはり私にはそれがお似合いなのだと、俯きながら踵を返した。
　そうして数歩進み、家の庭に足を踏み入れようとした時だった。
　
　不意に肩を叩かれ、勢いよく顔を上げた。
　

「ひな、見ーーーっけ」


　肺を通り越して、心臓が止まりそうになった。
　眼前に、追いかけていたその人はいた。
　悪戯っぽく目を細め、口の両端をにっと上げた海斗は、吐息が触れそうなほど近くで私の間抜けな顔を覗き込んでいた。

「きゃあ！」

　自分でも初めて聞く、すっとんきょうな声がついて出た。
　弾みで一歩下がり、火照る頬を隠すように両手で覆った。

「え、え、なん、で……？」
「誰かにすんげえ見られてる気がして、振り向いてみたらひなっぽい後ろ姿が見えたから、走って来た」

　少年らしい爽やかさと艶っぽさがひしめく声、滑舌のいい快活な話し方。
　海斗がいる、本当に目の前にいるんだ、また会えた、話せたと、脳が軽くパニックを起こす。