君と命の呼吸

碧野葉菜

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1.海、みたいな人

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「陽波、大丈夫か?」
「あ、う、うん、私は大丈夫だけど」
「だけど、何?」

 理人の目が、有無を言わさない。
 近づいて来たお姉ちゃんに、肩を撫でられた。

「陽波、やっぱり疲れたんじゃない? 六月末と言ってもこっちはもう真夏日和だし。せっかくあなたの身体のために空気の綺麗な場所に家を借りたのに、観光で体調を崩していては意味がないわよ」

 お姉ちゃんは利便性のいい那覇市内から、わざわざ最南端のここに家を借りてくれた。
 お父さんは大企業の役員で、お母さんはピアニスト、それを鼻にかけない優しさと温かさで私なんかを育ててくれている。
 けれど、職業柄忙しさは回避できない。
 私の体調を整えるよう、環境のいい場所でしばらく静養させようと話が出た時、「涼ねえがいない間の陽波が心配」だと手を挙げたのは理人だった。

 東京での家が近く昔から家族ぐるみで付き合いがある。
 先生や生徒、親たちからも優等生と評判の理人が病気の私に付き添うのを、褒めはしても反対する人はいなかった。
 夏休み前に一ヶ月休学するのも、成績がいい彼にとっては問題ではなかった。
 友達も、親族も、みんな同じことを言う。

『理人くんに感謝しなさい』
『お姉ちゃんに恩返ししなくちゃね』
『陽波ちゃんは本当に恵まれてるわ』

 だから私は恵まれていて、感謝を忘れない、そういう子でいなくちゃいけない。

「涼ねえ、さっき陽波が素行の悪そうな漁師にナンパされて」
「ちが」
「そう、あまり海には近づかせない方がいいかもしれないわね、ただでさえ危ないのだから、私が仕事に行ってる間、お願いよ理人」
「わかってる。二度とあんな目に遭わさないから……な、陽波」

 二人が今、何を考えているのか、わかる。
 ずいぶん過去の出来事のそれを、口にするのはきっと、いけないことだから。
 
 私は黙って、二人の言葉に頷いた。
 大切な二人、大好きな二人。
 なのに、どうしてこんなに苦しいんだろう?
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