君と命の呼吸

碧野葉菜

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1.海、みたいな人

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「びっくりした、よくわかったな! 見ない顔だからこの辺の人間じゃねえと思ったんだけど」
「あ、はい、違います、東京から来たので、でも、海とか魚が好きで……よく、本や動画で見たりしてるので」
「食う方じゃなくてそっち!? 珍しいな!」
「あ、た、食べるのも好きです」

 そう口にするや否や、小ぶりなハマダイが私の手に放たれた。
 というよりは、押しつけられたと言った方が正しいかもしれない。
 彼の予期せぬ行動に焦りながらも、魚を落とさないよう必死に掴んだ。

「わわ、な、なんかす、すごい、元気」
「へっへー、だろだろ? 活きがいいんだ、俺がるやつはみんなそう!」

 得意そうにくしゃりと目を細め、めいっぱい笑ってみせる彼はおひさまよりも眩しく見えた。

 ――可愛い……。
 風船が破裂するかのように、台詞が頭で弾けた。
 男の人にそんなことを思うのは初めてだった。

「すんげえこっち見てたから腹減ってんのかと思って、持ってきた」

 まさか、空腹のせいで魚食べたさに漁船を見つめていると思われていたなんて、羞恥心で頭を低くしてしまう。

「そ、そういうわけじゃ……ただ、漁師さん、すごいなと思って、見てただけで」
「すごい?」
「海のこと、よく知ってるだろうし、きっと泳ぐのも上手なんだろうなって、そういうの、かっこいいなって……嫌な気がしたら、ごめんなさい」

 気持ちを伝えるのは苦手だ。
 まるで息をするのが苦手なことに比例するように、上手に言葉が出てこない。
 相手の反応を窺って、つい小さな声で辿々しくなってしまう。
 
 ほんの少しの沈黙すら不安でちらりと下から盗み見た彼は、長い人差し指で頬を掻きながら不思議そうに、けれどほのかに嬉しそうな顔をしていた。
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