3 / 45
1.海、みたいな人
3
しおりを挟む
「中に入らないのか?」
「外、見てたいから。理人だってせっかく来てくれたんだから、よく見といた方がいいよ」
「俺は別に、田舎に興味なんかない。陽波のために来ただけだからな」
理人は軽くあしらうように言うと、小さな家屋に入って行った。
私たちが住む大都会と呼ばれる場所では、決してお目にかかることができない自然の数々。
太陽が浮かぶ空から海、それを彩るような色鮮やかな草花は、天地をひっくるめた大きなキャンパスの絵のようで、いくら見ても飽きない。
けれど、理人にとっては違うらしい。
同じ言葉でも受ける人によって解釈が異なるように、同じ景色でも同じように目に映るとは限らない。
「もったいないな……」
潮風に頬をくすぐられ、肩にかかるセミロングの髪が靡く。
生まれつき色素が薄い私は、茶色みがかった髪をハーフアップにし、貝殻の飾りがついたバレッタで留めていた。
砂浜から離れても辺り一面は海のまま、今いる歩道の少し先にはテトラポッドがたくさん詰まれている。
遠方に見える一隻の船が、速度を落とし、やがて岸辺に止まった。
客船ではないと一目でわかる、小さな船だ。
大人が十人も乗れば満員だろうか、浅くて縦に長く、先が三角状に伸びている。
白っぽい船体はややくすんでおり、長年に渡り使われているのが見て取れた。
“蒼凪丸”と墨のような文字で書かれた漁船の上では、五、六人の男性が何やら話をし、手にした網から魚を取り出したりしている。
その中で、一際目を惹く“彼”を見つけた。
長い前髪を煩わしそうに手の甲で拭いながら、周りの人たちの話を聞いているように見える。
年配男性ばかりの中に一人だけ紛れた若々しい彼は、離れた場所からでも目を奪われるほど十分にその存在感を放っていた。
「外、見てたいから。理人だってせっかく来てくれたんだから、よく見といた方がいいよ」
「俺は別に、田舎に興味なんかない。陽波のために来ただけだからな」
理人は軽くあしらうように言うと、小さな家屋に入って行った。
私たちが住む大都会と呼ばれる場所では、決してお目にかかることができない自然の数々。
太陽が浮かぶ空から海、それを彩るような色鮮やかな草花は、天地をひっくるめた大きなキャンパスの絵のようで、いくら見ても飽きない。
けれど、理人にとっては違うらしい。
同じ言葉でも受ける人によって解釈が異なるように、同じ景色でも同じように目に映るとは限らない。
「もったいないな……」
潮風に頬をくすぐられ、肩にかかるセミロングの髪が靡く。
生まれつき色素が薄い私は、茶色みがかった髪をハーフアップにし、貝殻の飾りがついたバレッタで留めていた。
砂浜から離れても辺り一面は海のまま、今いる歩道の少し先にはテトラポッドがたくさん詰まれている。
遠方に見える一隻の船が、速度を落とし、やがて岸辺に止まった。
客船ではないと一目でわかる、小さな船だ。
大人が十人も乗れば満員だろうか、浅くて縦に長く、先が三角状に伸びている。
白っぽい船体はややくすんでおり、長年に渡り使われているのが見て取れた。
“蒼凪丸”と墨のような文字で書かれた漁船の上では、五、六人の男性が何やら話をし、手にした網から魚を取り出したりしている。
その中で、一際目を惹く“彼”を見つけた。
長い前髪を煩わしそうに手の甲で拭いながら、周りの人たちの話を聞いているように見える。
年配男性ばかりの中に一人だけ紛れた若々しい彼は、離れた場所からでも目を奪われるほど十分にその存在感を放っていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
金色の庭を越えて。
碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。
人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。
親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。
軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが…
親が与える子への影響、思春期の歪み。
汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
おばあちゃんと孫の楽しい夏の思い出
もふきち
青春
おばあちゃんと孫の楽しい生活を。
夏休みだが両親は急遽出張に行かなくてならなくなり、お金をもらいおばあちゃんのところへ行き楽しい夏を過ごす。久々に長い間おばあちゃんと夏休みを過ごせるので、拓也はとてもワクワクしていた。そしておばあちゃんの家でスイカ割りや花火など夏を満喫するお話。
不定期更新ではじめての作品ですが、読んでくれると嬉しいです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる