アオハルのタクト

碧野葉菜

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終曲(フィナーレ)

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 あれからずいぶん街並みが変わった。明石駅周辺の再開発が進み、駅構内のショッピングモールは改装され、俺たちが住むタワーマンションもできた。同時に、育児センターや飲食店が入った商業施設も建った。以前は距離があった市役所や、明石公園にあった図書館もここに移転し、昔に比べればずいぶん便利になったと思う。
 子育て環境が整っているとかで、明石市民は増加傾向にあるらしい。優希も「ええとこに住んでるわ」って言いながら、しょっちゅう出かけて、ママ友ってやつと交流しているらしい。
 学生時代の仲間とも続いている優希は、柳瀬の情報も仕入れてきた。大学には行かず、鳶職しながら、元担任と結婚したとか。俺が母校に赴任した時には、とっくに違う学校に異動していたから、祝いの言葉は遅れずじまいや。彼女は今でも、まっすぐな黒髪を伸ばしているんやろうか。
 近代の医療技術はすごい。いや、それ以前に優希の力が弱かったんか。結局、俺の右手は指を二本骨折しただけで、大した時間もかけず、ほとんど元通りになった。
 だから音楽教員の免許が取れた。プロのピアニストは無理やったけど、安定した職業に就けて親も喜んでいる。祖父母が前もって購入していた家を、結婚祝いにもらった。十五階からの眺望は最高で、去年から世界二位の長さになった、明石海峡大橋も見える。優希似の可愛い娘にも恵まれ、順風満帆で、俺はほんまに幸せ者や。幸せ、しあわせ、シアワセ――。
 今日は俺の二十六回目の誕生日。高校を卒業した年から「山の日」という祝日になった。それやのに、忘れ物を思い出して、学校に行くことになった。奥さんと子供に手を合わせて「すぐ帰るから」と頭を下げると、山陽電車に乗り職場に急いだ。
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