50 / 70
小夜曲(セレナーデ)
3
しおりを挟む
しばしの沈黙の後、気まずそうな顔をした男は、頭を掻きながら背中を向けて去っていった。ナンパの撃退方法が斬新すぎるけど、ざまあみろと思ったんも否定できん。
「……春歌、お前、もうちょっと言い方ってもんが」
「拓人のくせに私を待たすからでしょ」
つまり、春歌がナンパに遭ったんは、俺が遅刻したせいやと?
いや、約束の時間は守れてるし、そもそも拓人のくせにってなんや。さっきの台詞といい、突っ込みたい部分が多すぎて頭がついていかん。あれ、でも、春歌の言うことがほんまなら、柳瀬とも――?
いや、過度な期待はよそう。誘いを断るための、嘘も方便かもしれん。
「ごめん、まさか春歌のが早いとは思わんかった」
謝罪しながら心を落ち着かせ、改めて目の前の春歌を見つめる。
くすんだ桜色のAラインのワンピース。前ボタンはきっちり首元までしまっていて、ノースリーブから白い二の腕が伸びている。脹脛まである丈が、ミニよりも上品さを演出している。ツバが大きめの帽子に、ラインストーンがのった白いサンダル、服と同じ色の爪も、全部似合っていて、褒める場所に困る。
まだ十五歳やのに、ここまで大人っぽい装いが様になる子も珍しいやろう。真夏に暖色系は暑苦しいイメージがあったけど、春歌のスッキリした体と涼しい目鼻立ちのおかげで華やかさだけが際立つ。久しぶりに見た春色に、懐かしさを覚えた。
「ピンクの服、珍しいな、ずっと水色とかが多かったから」
春歌の私服や小物は、気づけば青系ばかりになっていた。学校のカバンにつけたマスコットや、スマホも水色で、今日のハンドバッグもそう。必ず身につけるか持ち歩いている、よほどこの色が好きらしい。
「……拓人が私のイメージ、ピンクって言うから」
「え? なんて?」
俯きがちに小声で言われて、内容を拾いきれんかった。そんな俺に、春歌はキッと睨みを利かすと「知らない!」と言って顔を背けて歩き出した。
なにかまずいことをしたんか、まったく心当たりがない俺は、春歌の名前を呼びながら後を追いかけた。
「……春歌、お前、もうちょっと言い方ってもんが」
「拓人のくせに私を待たすからでしょ」
つまり、春歌がナンパに遭ったんは、俺が遅刻したせいやと?
いや、約束の時間は守れてるし、そもそも拓人のくせにってなんや。さっきの台詞といい、突っ込みたい部分が多すぎて頭がついていかん。あれ、でも、春歌の言うことがほんまなら、柳瀬とも――?
いや、過度な期待はよそう。誘いを断るための、嘘も方便かもしれん。
「ごめん、まさか春歌のが早いとは思わんかった」
謝罪しながら心を落ち着かせ、改めて目の前の春歌を見つめる。
くすんだ桜色のAラインのワンピース。前ボタンはきっちり首元までしまっていて、ノースリーブから白い二の腕が伸びている。脹脛まである丈が、ミニよりも上品さを演出している。ツバが大きめの帽子に、ラインストーンがのった白いサンダル、服と同じ色の爪も、全部似合っていて、褒める場所に困る。
まだ十五歳やのに、ここまで大人っぽい装いが様になる子も珍しいやろう。真夏に暖色系は暑苦しいイメージがあったけど、春歌のスッキリした体と涼しい目鼻立ちのおかげで華やかさだけが際立つ。久しぶりに見た春色に、懐かしさを覚えた。
「ピンクの服、珍しいな、ずっと水色とかが多かったから」
春歌の私服や小物は、気づけば青系ばかりになっていた。学校のカバンにつけたマスコットや、スマホも水色で、今日のハンドバッグもそう。必ず身につけるか持ち歩いている、よほどこの色が好きらしい。
「……拓人が私のイメージ、ピンクって言うから」
「え? なんて?」
俯きがちに小声で言われて、内容を拾いきれんかった。そんな俺に、春歌はキッと睨みを利かすと「知らない!」と言って顔を背けて歩き出した。
なにかまずいことをしたんか、まったく心当たりがない俺は、春歌の名前を呼びながら後を追いかけた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜
green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。
しかし、父である浩平にその夢を反対される。
夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。
「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」
一人のお嬢様の挑戦が始まる。
金色の庭を越えて。
碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。
人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。
親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。
軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが…
親が与える子への影響、思春期の歪み。
汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
真っ白なあのコ
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【私だけの、キラキラ輝く純白の蝶々。ずっとずっと、一緒にいましょうね】
一見、儚げな美少女、花村ましろ。
見た目も性格も良いのに、全然彼氏ができない。というより、告白した男子全てに断られ続けて、玉砕の連続記録更新中。
めげずに、今度こそと気合いを入れてバスケ部の人気者に告白する、ましろだけど?
ガールズラブです。苦手な方はUターンお願いします。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる