アオハルのタクト

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
12 / 70
夢想曲(トロイメライ)

2

しおりを挟む
 青木あおき春歌は、いつも突然やって来る。大抵は爆弾のように激しく、ええことも悪いことも、嵐のように運んできては攫っていったりする。
 会いたい時はどこを探してもおらんくせに、会いたくない時に限ってやって来る。俺にとっての最悪なタイミングは、春歌にとってはチャンスタイムなんやろう。だから今も鼻歌を歌いながら、ご機嫌そうに辺りをうろついている。セーラー服もハイソックスも濃いネイビーやから、白いスカーフと一緒に透き通った肌が際立つ。
 初めて制服姿を見た時、感激して写真を撮りたかったけど、照れくささが邪魔をして誘えんかった。そのうち、俺と優希の両親が勝手に盛り上がって、校内に咲いた桜の前に立たされた。高校の入学式にもなって、記念撮影なんて冗談キツかった。適当に愛想笑いをして済ませた後、春歌はもうどこにもおらんかった。
 苦い思い出に息をついていると、不揃いな草を蹴るローファーが、ピタリと止まった。
 春歌の視線を追うと、前方、まっすぐに伸びた葉っぱの先に、青い蝶がとまっているのがわかった。アオスジアゲハや。黒い縁に囲まれた翅脈、光の加減によってエメラルドにもアクアマリンにも見える色が美しい。明石公園には昔からおる。小さな頃、父さんとよう虫取りに来た。

「綺麗な」
「拓人、虫取り好きだったよね、小学生の時、やたらと誘ってきたし」
「あ、ああ、まぁ、そんなこともあったな」

 取るに足りん過去のように、今思い出したふうに装った。
 忘れるはずがない。土日は父さんと虫取り。それよりももっと楽しみにしてたんは、平日の春歌との時間やったから。
 春歌には運動制限がある。だけど軽い外遊びくらいならできる。要は走ったり、心臓に負荷をかけんかったらええんや。だから虫取りなら大丈夫かなって、誘ったんが最初やった。だけど春歌がしたことはなかった。特に興味がなかったらしい。むしろ興味がないことだらけや。昔から本を読むんは好きみたいやけど。
 だから俺を見てって、いっぱい取ったるから、待ってろって。あきれ顔をした春歌を木陰に座らせ、必死で捕まえた蝶を虫カゴに入れた記憶。

「見て見て春歌、見て見てーって、超うるさかった。そのわりには大して取れてないし」

 神奈川出身のくせに、ご丁寧に関西弁のイントネーションで俺の真似をしてみせる。そして最後にグサリと刺さることを言うんも、お決まりや。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金色の庭を越えて。

碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。 人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。 親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。 軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが… 親が与える子への影響、思春期の歪み。 汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。

君と命の呼吸

碧野葉菜
青春
ほっこりじんわり大賞にて、奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪ 肺に重大な疾患を抱える高校二年生の吉川陽波(ひなみ)は、療養のため自然溢れる空気の美しい島を訪れる。 過保護なほど陽波の側から離れないいとこの理人と医師の姉、涼風に見守られながら生活する中、陽波は一つ年下で漁師の貝塚海斗(うみと)に出会う。 海に憧れを持つ陽波は、自身の病を隠し、海斗に泳ぎを教えてほしいとお願いするが——。 普通の女の子が普通の男の子に恋をし、上手に息ができるようになる、そんなお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

水曜日は図書室で

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
綾織 美久(あやおり みく)、高校二年生。 見た目も地味で引っ込み思案な性格の美久は目立つことが苦手でクラスでも静かに過ごしていた。好きなのは図書室で本を見たり読んだりすること、それともうひとつ。 あるとき美久は図書室で一人の男子・久保田 快(くぼた かい)に出会う。彼はカッコよかったがどこか不思議を秘めていた。偶然から美久は彼と仲良くなっていき『水曜日は図書室で会おう』と約束をすることに……。 第12回ドリーム小説大賞にて奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

青春リフレクション

羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。 命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。 そんなある日、一人の少女に出会う。 彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。 でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!? 胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

処理中です...