アオハルのタクト

碧野葉菜

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余興曲(バディヌリー)

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 いくら昔馴染みやからって、年頃の男女を二人きりにするんはどうかと思う。小さな頃からのクセなんか、父さんも母さんも、優希が来ると平気で俺の部屋に通す。なにもないと信じてるんか、いや、むしろ、そろそろなにか進展がないかと期待してるんか。
 どちらにしろ、当人同士の意思の問題や。ただの小さな頃からの友達。異性として意識したことはない。少なくとも、俺の方は。
 大人五、六人並んでも余裕があるやろう、広い玄関を越えれば、左手に開放的なリビングがある。衝撃の十二年前から変わらず、窓際にあるグランドピアノ。今は見向きもせず、正面奥に見える階段を上がり、俺の一人部屋のドアを開ける。
 なんの変哲もない、男子高校生の部屋や。右手にシングルベッド、左手に学習机、そしてその隣、窓に沿うように置かれたアップライトピアノ。一人きり、こもって練習したい時もあるやろうと、グランドピアノよりコンパクトなこれをくれた。両親からの小学校の入学祝いやった。
 なんであの時、この色を選んだんやろう。茶系の種類も他にはあったのに、あいつの髪みたいな、艶やかな漆黒に。
 部屋の入り口で立ち往生していると、肩を叩かれ我に返る。振り向けば出会う、不思議そうな丸い目から、部屋に誘うふりをして視線を逸らした。俺が足を進めれば、優希も躊躇いなく部屋に入ってくる。
 
「あたしも観たかったなぁ、たっちゃんの大舞台」
「仕方ないやろ、優希はチアの大会やったし」

 優希は三歳から始めた習い事の、チアダンスを今も続けている。勉強よりも体を動かす方が向いてるらしい。その大会と今回のピアノコンクールが、たまたま同じ日に開催された。だから観に来ることができんかったんは当然や。
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